8月5日-1
白地に濃いブルーのラインが入った飛行機は、
ランディングギアを弾ませながら空港に降り立った。
8月の太陽に照らされた滑走路に陽炎が揺らめき立っている。
キャリーカートを受け取り、なんとか旅客ターミナルの到着ロビーまでたどり着いたけれど、
約束した場所に彼らしき人は見当たらない。着信も無い。メッセージも届いていない。
私は小さくため息をつくとソファに腰を下ろし、ぼんやりとこれからのことを考えはじめた。
空港を出たらまっすぐに彼の家で向かうはずだ。
中に招き入れられた私はソファまで連れて行かれ、二人はそこで濃厚に舌を絡める。
彼の手はワンピースの上から胸に伸び、やがて探るように中に入ってくるだろう。
そして、ブラの隙間から直接忍び入った指が敏感な部分に触れ、私の口からは吐息が漏れる。
彼の手でワンピースのチャックがゆっくりと下ろされていき――
「詩織ちゃん、だよね?」
その声で私は甘い空想の世界からふいに現実に引き戻された。
黒いセルフレームの眼鏡をかけた男性が微笑んでいる。
「待たせてごめん。連絡しなきゃいけなかったんだけど、
途中でスマホの充電が切れちゃって。本当にごめんなさい。」
そうやって何度も謝ると彼は私のカートを曳いて歩き出し、私たちはリムジンバスに乗り込んだ。
「1時間くらいかかるんだ。羽田から遠いんだよね、うち。」
最後部の席に並んで座る。3ヶ月間SNSでだけやり取りをしていた男の人が私の隣に座っている。
ずっと想像の中の人だった。漫画から飛び出してきたキャラクターと並んでいるような不思議な感覚だ。
まだ現実感が無い。思い切って彼のワイシャツの袖に手を伸ばすと、指先は確かに生地の肌触りを感じた。
その感触だけで心臓が飛び跳ねる。ほんの少し手を伸ばした先に彼の手があるけれど、
とても触れる勇気は無い。そっと袖口から手を離そうとした瞬間、手は温かな感触に包み込まれた。
彼の手が私の手を握っている。
驚いて彼の方に目をやると、窓の外に顔を向けていた。表情は見えない。
中指の爪先から指の付け根にかけてゆっくりと彼の指先が伝っていく。
私の指を玩ぶように何度も何度も。爪先が爪先を軽くこすり、指の股を指が這っていく。
手の甲が手の甲を撫であげていく。背中を電流のようなものが走り抜ける。
やがて、彼の手は私の手首を優しくつかむと、ワンピース越しに太ももを触らせ始めた。
「服の上から触ってごらん。」
耳元で囁かれた言葉が、私から不安と羞恥心を奪い去ってしまった。
私はコクンと小さくうなずくと、自分と彼の手を挟み込むようにしてゆっくりと動かし始める。
布越しの感触がもどかしい。服の上からとは言え、他人に体を触られるということが
これほどの興奮を覚えるものだとは思わなかった。
思わず声を漏らしそうになり、慌てて周りに目をやる。
通路を挟んだ席に乗客はいないが、前の席では中年のサラリーマンらしき男性がうたた寝をしている。
「静かにしないと聞こえちゃうよ。」
彼は口元で人差し指を立て、戯けた表情で私に目配せをする。
必死に声を押し殺していると、ワンピースの裾が少しずつめくり上げられはじめた。
太ももが露わになる。彼の手が中に入り、下着の上から一番敏感な部分をこすられる。
「あと15分くらいだから、頑張ってね。」
15分!?あと15分もこんな状態で我慢するの?戸惑う私を嘲笑うように、
中指の爪先がクリトリスを優しくこすり始める。気持ちいい……。
自分で触るのとは違う感触に体は反応し、私はその快感に酔いしれる。
「濡れてるんだね。下着の上からでもはっきり分かるよ。」
この状況では仕方が無いとは言え、彼は何かを話す度に私の耳元に口を近づけてそっと囁く。
低い囁き声と耳朶をくすぐる息づかいに、いやが上にも興奮を高めさせされる。
するりと指が忍び入り私の滑りをすくい上げると、
ヌルヌルになった指が一番気持ちいいところへ直接伸びてきた。
円を描くような動きでの優しい刺激。私は人差し指を噛んで必死に声を抑える。
んッ――。
咥えた指の隙間からくぐもった声が漏れる。それと同時に私は絶頂を迎えた。
大勢の乗客が乗っているバスの中で、初めて会った男性に性器を玩ばれ、絶頂へ導かれる。
とてもとても恥ずかしい状況のはずなのに、なぜか味わったことが無い開放的な気分に満たされていた。