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ぜんぶはじめて
【調教 官能小説】

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6月11日-1

「あ、あっ、んっ……。」
人差し指と薬指で軽く開いた性器に中指を這わせる。
あふれ出すものでヌルヌルになった中指でクリスリスをこすりあげる度に、
波のように快楽が押し寄せる。
「すごくかわいい声、出てる。」
あの人の囁きが耳に心地良く響き、全身に痺れが走る。

東京に住んでいるというその男の人は、ずっと年上の34歳。
数週間前、ボイスチャットの掲示板で知り合い、すぐに意気投合した。
やがて、好きな異性のタイプについての話がきっかけとなり、
性癖を赤裸々に語り合うようになった。
互いの話と声に酔いしれた私たちは、程なく話をしながら性器を触り始めるようになっていた。

今日も趣味や友達のことを話していたはずが、いつの間にか話は逸れ、
彼に荒い息づかいを聞かれながらオナニーに耽っていた。

「んんっ……。もう、ダメ……。」
私は、次第に大きくなる快楽の波に呑みこまれようとしていた。
「まだいっちゃダメ。でも、手を止めるのもダメだよ。」
気持ちいいまま我慢してごらん、と彼は言った。
「我慢なんて出来ないよ……。」
敏感になり過ぎたこの状態で絶頂を我慢することなど出来そうにない。
すると、彼は小さな笑い声を立てて悪戯っぽく言った。
「いきたい時はなんて言えば良かったんだっけ。」
本当に意地悪。焦らせ、昂ぶらせ、抗えないほど気持ち良くさせておいてなお、
彼は私を玩具にしようとしている。いつも優しいあの人が見せる意地悪な顔。
それは、私の心を更にかき乱し、絶頂を早めこそすれ、我慢を助けるものになどならなかった。

いきたい。
いきたい。いきたい。いきたい。
いきたい。いきたい。いきたい。いきたい。いきたい。
他には、何も考えられなかった。

「いかせてください。」
すすり泣くような喘ぎ声とともに、哀願の声を漏らす。彼は沈黙したままだ。

早く。早く、いくのを許して。

ぬめりが絡みついた中指は、優しく叩くようにクリトリスを刺激し続けている。
絶頂の大きな波がすぐそこまで来ていた。

「いいよ。いきなさい。」

彼の声はクリトリスへの刺激とともに頭の中を駆け巡る。
次の瞬間、真っ白になった世界を私は高く高く昇りつめた。
「――イック!」
強烈な快楽のなか、全身を小刻みに震わせながら、
昇りつめた高みからゆっくりと深い海の底へ沈んでいく。
一番深いところで彼は待っていてくれた。

「ちゃんと言えたね。いい子いい子。」
ぼんやりとした頭に彼の声が響く。
「うん。頑張ったよ。」
本当はそのまま彼の胸に飛び込みたかったけれど、二人の間には1,000km以上の距離があった。
オナニーが終わると、私はいつも以上に甘えてしまう。
恥ずかしいとか、照れくさいとか、嫌われたらどうしようなどとためらうことは無かった。
どれだけ甘えても受け入れてくれる。それがとても心地よかった。

「あのね、本当は終わった後、ギュッて抱きしめてほしいんだ。」
彼は、たくさんの優しい言葉で私を包み込んでくれる。
でも、実体を持ったもので包み込んでほしいと思ってしまった。
抱き寄せられ、彼の胸に顔をうずめ、匂いをかぎたかった。
頭を撫でてくれる手の感触を感じたかった。体温を感じたかった。
二人の胸の鼓動を重ね合いたかった。

「そばにいてあげられなくてごめんね。」
どんなに心が寄り添っていても、物理的な距離は埋められない。
彼の申し訳なさそうな声を聞くと、チクリと胸が痛んだ。
「今日はそろそろ寝るから、もう切るよ。おやすみなさい。」
それだけ言い残すと彼は通話を切ってしまい、
結局、私は寂しい気持ちのまま布団に入ることになった。

そして、翌日、翌々日と彼は現れなかった。
もちろん声は聞けないし、「おはよう」や「おやすみ」というメッセージにも返信が無い。

不安に押しつぶされそうなまま2日が過ぎた。
そして、3日目。一通のメールが届いた。
「飛行機チケットの番号を送ります。良かったら遊びに来てください。」

――トクン。
私は胸が高鳴るのを感じた。


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