〈夢見る被写体〉-12
(お母さん…まだ帰ってないんだ……)
頼れる者はここには居ない。
だが、この状況で怯んでいたら何も変わらない。
孝明と二人でついた嘘はバレてる様子は無かったし、ここでオドオドしたら元も子もない。
花恋はなに食わぬ顔を装いながら玄関を開けると、スタスタと階段を上がっていく……と、いきなり背後から駆け寄る足音が聞こえ、そして裕樹の耳障りな声が鼓膜を打った……。
『へへ…今日はどんなプレイをしたんだ?お兄ちゃんの部屋で俺達に聞かせろよ……』
「ッ……!?」
ヘラヘラと笑いながら裕樹は肩口を掴んできた。
花恋が無言で肩を揺すって不機嫌さを表しても、一向に構う様子はみせない。
『やっぱ男優のテクニックって凄かったのか?気持ち良すぎて我慢出来なくなって、それで勝手に契約決めたのかよぉ?』
「ちょっと何よッ…も、もう私に構わないで…ッ!」
『「構わないで」じゃないんだよ。俺の部屋に入れ、いろいろ聞きたいからなあ』
やはり孝明が目の前に居なければ駄目なのだろうか。
花恋は力ずくで裕太の部屋に引き摺り込まれると、ベッドの上に押し倒された。
両手は裕樹が押さえつけているし、裕太は両脇に太股を抱える形で下半身に挟まっている。
それは何時でも凶行に及べる状態に他ならず、花恋の想定していた〈試練〉とは明らかに違うものだ。
「や…あぁッ!?」
一気に胸元までワンピースが捲られると、花恋は抵抗を示しながら小さな悲鳴をあげた。
『……おかしいなあ……どんな男優相手でも“ヤリます”って契約したのに……なんで悲鳴なんかあげるんだ?』
「……ッ!?」
裕太も裕樹も、無気味な笑みを浮かべながら見下ろしている。
その視線や表情に、花恋は〈見破られている〉という思いを抱かずにはいられなかった。
『次の撮影で俺達に紹介料は入るのか?それとも花恋だけがギャラを貰うのか?俺のお陰で新しい仕事に就けたんだから、それくらいは教えてくれよぉ……』
「な…なによ…ッ…知りたかったら孝明さんに直接聞けば…?」
『はあ?孝明さんは金には煩い人なんだよ。そんなトコをあやふやにして契約するワケねえぞ』
そもそもが口約束だけの契約である。
契約内容など有りはしないのだし、質問に答えられるだけの知識も、まだ高校生の花恋には持ち合わせていなかった。