〈弱虫の決意〉-8
『安心したかい?顔は分からないし大事なアソコはモザイク掛けてるし、これなら撮影しても平気だよね?』
“平気”と問われても答えは違っている。
殆ど無修正に近い画像処理は抵抗感を弱めるには至らないし、やはり自分のセックスシーンが商品にされるのは耐え難いものがある。
『スタジオも見に行こうか?スタッフに挨拶に行こうよ』
『じゃあまた後でね』
『準備が終わったらスタジオで会おうね』
「あ…あのッ!?私はまだ……」
孝明は花恋の肩に腕を回すと、やや強引に事務室から連れ出した。
「まだ撮影するって……あの…ッ…あの私は…ッ」
『さっき「宜しく」って言ったじゃない?大丈夫、ウチのスタッフに恐い人は居ないから』
戸惑う花恋を腕に包んだ孝明は、ドアを開けて廊下を右に曲がり、その突き当たりのドアを開ける。
そこには真っ白なシーツを敷いた広いベッドがドンと置かれ、その周囲では数人のスタッフ達が撮影の準備をしていた。
『やあ、こんにちは』
『あら〜、可愛い娘ねえ』
集音マイクを持つ者やカメラチェックに忙しいスタッフ達は、とても明るい声と表情で花恋を迎えてくれた。
しかも男性に混じって女性の姿までもあり、ここでも花恋の想像とは違う世界が広がっていた。
『この娘が花恋ちゃんだよ。友介と隼人とで3Pするから、そこんとこ宜しくな』
『名前も顔も可愛いんだね。ちょっとしたアイドルみたいじゃない?』
『友介も隼人も優しいから怖くはしないよ?緊張しなくていいからね、花恋ちゃん?』
明るい人達ばかりのスタジオを見て、花恋の気持ちは撮影を受け入れてもいいという方向に傾きはじめていた。
このスタッフ達に囲まれてなら、今まで受けたような乱暴は無いだろう。
それに今日の撮影が終わったなら、孝明は自分の味方になってくれるのだ。
(どうせ恥ずかしい思いをするんだから……)
今朝はレイプを覚悟していた。
だが、事態は変わった。
思いきって自分の意思を示した事で、花恋は未来を変えられるかもしれない一歩手前まで来れた。
今から数時間の後には、間違いなく《得るもの》があるのだ。
ならば今さら悩んでも仕方がないという決意を花恋は抱いた。