〈弱虫の決意〉-9
「あ…あの…ッ…宜しくお願いします…！」
そう口にしても、心の中は穏やかではいられなかった。
何度も何度も「本当にいいのか？」と自問自答を繰り返してしまい、身体の震えは収まらない。
『じゃあシャワー浴びてこよっか？』
３０代くらいの女性スタッフに声を掛けられ、花恋はスタジオの隣にあるシャワー室に入った。
ワンピースと下着を脱ぎ、備え付けのシャンプーで髪を洗い、そしてボディーシャンプーで全身を洗う。
熱めのお湯が肌を流れていき、白い裸体は湯気の中でしなやかにくねる。
(これから…撮られちゃうんだ……本当に……)
撮影を反故にする事は、孝明の〈提案〉をも反故にする事を意味する。
もはや後戻りは出来ないし、この今の自分の選択を信じる以外にない。
花恋は鏡に映る不安げな自分の顔を見つめながら、ドライヤーで髪を乾かし、用意されていた純白の小さなパンティと、同じく真っ白な長袖のＹシャツに腕を通した。
「………」
Ｙシャツは男性用で、身長に比して丈は長い。
袖口は指先を通り越してプラリと下がっているし、その丈のお陰でどうにかパンティを隠せている。
更にブラジャーが着けられていない胸元は乳首が透けており、その浮き上がるピンク色は清純を装った淫女のよう。
『シャワー終わった？コッチは準備ＯＫだから、いつでも入ってきてね？』
あの女性スタッフが花恋に声を掛けてきた。
もう迷いは捨てなければならない。
花恋は素足をスリッパに潜らせてスタジオに入る……そこには真剣な眼差しをしたスタッフ達と、花恋を待ちわびている巨大なベッドがあるだけだ……。