異世界の血液-6
露地から出て稼いだ金でホコテンの出店で売ってるものを値切って買ったりしながらアキラは歩いていた。
そこへなにやらエンジン音と悲鳴が向こうの方で聞こえた。なにやらこっちの方に大型トラックが突っ込んで来る。
途中何人も跳ね飛ばして、気がついたときはアキラもハネられていた。この既視感、このデジャブ。
そして丁寧にも路面に墜落したアキラの体を大型トラックの太いタイヤがミシミシミシと上から轢いて行く。
ボキビキビキ、プチプチプチという音がして、一瞬にして打撲、骨折などが全快する。
アキラがすいっと立ち上がったのを見て、通行人の年配の女性が気を失った。だよね、きっとゾンビになって立ち上がったのだと思ったんじゃね。
トラックはようやく建物にぶつかって止まったが運転席から降りて来た男は三十代で髪が寝癖ではねている怪しげな男。右手に持っているのは文化包丁。そして通行人に飛びかかって行き、片っ端から刺して廻った。
「殺す、殺す、殺す。誰でも良い。死んでくれ。っていうか死ねぇぇぇぇぇええええ」
あちこちに血しぶきが飛び散り、人がばたばたと倒れる。アキラはその包丁男に近づくと、
「お前こそ死ねぇぇぇぇぇぇぇ」
よく言えたな。お腹に文化包丁が突き刺さっているのに。そのセリフを言い終わらないうちに男がアキラに包丁を突き刺したのだ。男は次の標的を狙うため文化包丁をアキラの腹から抜いて回収しようとした。
だがアキラは腹に力を込めて、包丁が抜けないようにした。それどころかどんどんめり込んで行き、終いには男の手から離れてしまう。
アキラは手をパーにして男の顔をパチンと突くと、男は三メートル後方に飛んで仰向けに路上に倒れた。既に鼻血を出して白目を剥いて気絶状態だ。
その後、腹に刺さったナイフがポンと飛び出た。
相変わらず服は破けたが、中身は一筋の傷も見当たらないのだ。ドラゴンパワー最強。
そして次々に来る救急車やパトカー。男は無論そのまま逮捕され、怪我人は救急車に運ばれて行く。
ところが肝心のアキラの姿は何処にもない。と思ったらアキラが刺されて反撃したところを携帯で動画に撮った者が複数いて、なんとネットで拡散されていた。
ついでに女たちやヤンキーどもを倒して金を巻き上げているところも撮っていた者が別にいて、それも同時に拡散された。
「お手柄不死身美少女」という題もついていたが「悪辣喝上げ少女の無双ぶり」とかいう題名も横行。
たちまちアキラは時の人になった。
だがあれだけの美少女、絶対目につく筈なんだけれど何処にもいない。
全国各地で目撃情報があったが、それは流行に則って茶髪カラコンでアキラスタイルを真似た普通の美少女だった。
ある日の公園で女の服を着たおっさんが警官に職務質問されて保護された。
おっさんには持ち金がなく、その服は病院のロッカーから盗まれた看護師のブランドものの私服だと判明して逮捕された。
「いつの間にか生えて来たんだ。で、転んでも打撲が治らなくなったし」
とか訳の分からないことを言い続けていたという。
いやいやいやそのおっさんがあの美少女だとは誰も言ってないよ。でもこれは短編だからこの辺で血液の効果がなくなって元の黙阿弥になってしまった、チャンチャン♪としたほうがオチがついて良いかなっててね。
ではまた会おう。バイなら!