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異世界の血液
【ファンタジー その他小説】

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異世界の血液-1

 諸君、ドラゴンって知ってるね。
 そもそもドラゴンとは異世界の生き物でそれがたまに何かのはずみで次元間移動をして地球上に現れたことがあったという設定でこの話は始まるんだ。 だがそれはすぐ宇宙の深遠なる存在である神によって元の異世界に戻されているので、現存したという証拠は後世に残らず、架空の生き物だったってことになっているのだ。つまりそういうお約束だね。

 今回の話は山奥に次元間移動してしまったドラゴンが人化して町まで出たときに血液センターの車でオレンジジュースとクッキーにつられて献血をしてしまうことに始まる。因みにドラゴンの血液型はA物質もB物質も入ってなかったから、そしてRH抗原もなかったので『RHマイナスO型』と判定された。

 ところでこのドラゴンはすぐに神が気づいて元の異世界に戻されたので、こいつの出番はここで終わりである。ほんのチョイ役の出番なんだけれども、人化したドラゴンとなればやはり人間離れした超美少女でしかも千年の齢(よわい)を重ねた威厳もあるから、これがドラマの撮影だったらそれなりの女優を使うだろうしギャラも高いと思う。

 閑話休題(それはともかく)、問題はここで登場するのは本命の主人公なのだが、碌な仕事にもありつけぬまま、社会の底辺に追いやられた哀れな男である。
 気がついた時は若年性糖尿病から脳梗塞になり、ふらふらと路上に倒れたところをひき逃げされて救急車で担ぎ込まれた男だ。年齢は二十代から五十代で身元不明、顔も体も目茶目茶で血だらけでよく分からない。
 看護師たちはボロボロの服をハサミで切り裂き下腹の出たブヨブヨの体を清浄綿で拭くのだが、全身内出血の紫斑だらけで、手足も複雑骨折のため変な方向に曲がっている。そしてまた、出血箇所も多く、放っておけば数分で失血死するだろうという医師判断になる。
 しかも輸血をしようにも血液型はRHマイナスO型ときた。諦めかけた時に血液センターから一袋だけ予備があると連絡が入り、それが届けられたので、気休めにそれを輸血した。
 さて輸血の措置はしたものの、仏になるのは時間の問題。別の救急患者が運び込まれたので、男は放置してそちらの方に医療スタッフが向かう。
 その間、ドラゴンの血を輸血された男は、死にかけていたのに復活することになるが、これが大変。
 ドラゴンの血は大血管から毛細血管にまで浸透し細胞の隅々にまで猛スピードで駆け巡ると、壊れた部分を修復し始めた。
 ボキボキボキとかプチプチプチという音が無人の処置室に響き渡り、男の体全体がバイブレーターをかけたようにブーーンと振動し始めた。
 まず内出血の紫斑も無数の傷口もそして全身の骨折も糖尿病も脳梗塞も前立腺癌も肩こりも虫歯も近視も乱視も何もかもすべて治ってしまったのだ。
 それだけでなくぶよぶよした脂肪は修復するためのエネルギーに燃焼され、激しい発汗をしながら体型がみるみる変化して行く。
 そこで注目しなければならないのは、ドラゴンがメスだったということ。そしてその血が体を修復し再構築するとなれば、人化したドラゴンの姿を雛形にして肉体を造形して行くということになる。
 つまり端的に分かりやすく奥歯に物を挟まずにはっきり言えば、ブサイクな男の体は超美少女の体に変わってしまったという訳だ。
 えっ、男としての体は残ってないのかって?
 それが提灯(ちょうちん)鮟鱇(あんこう)の雄のように雌の体に吸収されて消えてしまったってことだ。
 現れたのはナイスバディのハーフっぽい超美少女。年の頃は十四五才。ブラウンの長い髪と深海のような濃い群青の瞳と花びらのような淡いピンクの唇で、七難を隠すという透き通るような白い肌。
 とかとかとか……口で言い表すことも限界を感じるような、とにかく男なら誰でも振り向いて後を付けて盗聴や盗撮をしてストーカーしたくなるような美少女だったのだ。
 男の名前はアキラと言った。本当にどうでも良い話だが、男の名前はアキラと言った。どうでも良いことだから二回言ったぞ。えっ、意味不明だって?

 でもってアキラは自分の体が女になったから、自分はこれからなんて名乗ろうと思ったんだが、考えてみればアキラってのは女の名前にもあるから、そのままで良いと思ったんだ。あ〜〜、全くどうでも良い話だ、全く。
 それより考えなきゃいけないことがあるだろうに!
 そうなんだ。アキラは素っ裸なんだ。その上全裸でマッパなんだ。同じことを言ってるけど、これは重要だから言った。ヌードとも言う。

 


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