第２９話『牝馬！あるある大事典』-2
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『牝馬！ あるある大事典』
ウマ検定合格を目指す視聴者を対象とした、『２ｃｈ』による試験対策教育番組。 毎回テーマに沿ってウマの豆知識を紹介する。 健康にいい運動、肌年齢を若く保つ食事、畜舎を清潔にたもつ工夫など様々な観点がある。 頻出テーマは『蹄型（ひづめがた）』だ。 ブーツの爪先に宛がわれた蹄の型は、ウマの歩き方によって偏平になることもあれば馬蹄形になることもあり、時には羊蹄、或は鹿蹄形になる。 逆にいえば蹄型からウマの歩く特徴が分析でき、歩き方にはウマの性格が現れるというわけだ。 『蹄型式性格分析』『蹄型式健康診断』『蹄型式栄養状況』など、ただ『蹄』を見るだけで様々な状況が推測できる――ということになっているが、実際に蹄と性格に相関があるかどうか定かではない。 そこで、蹄型と性格との関連を分析した内容が放送された。
『裸馬』には蹄付ブーツが配給されないため、番組は専ら『露馬』を扱う。 訓練機器メリーゴーラウンドから伸びた鎖が後ろ手に回した貫頭衣と連結され、延々と定められた円周を歩行させられる『露馬』たち。 各メリーゴーラウンドには１頭ずつ『露馬』が繋留されている。 それぞれが定められたペースで歩行するが、歩行の決まりは太腿が水平になるまで足を高くあげることで、足を下ろす勢いや足首の返しは各々に委ねられている。 薄い芝から地肌がのぞく中、露馬たちが歩くたびに蹄が地面を掘り、どんどん歩行コースが抉れていくが、抉れ方には個体差があった。 万遍なく樋（とい）のように抉る個体、一点集中で逆三角形（▽）に掘る個体。 なるべく足を踏み下ろす瞬間に勢いを抑え、地面を傷つけないよう優しく地に足をつける個体もいる。
続いて頭部へポニーテール代わりにお盆を載せ、さらに水が入ったコップを載せる。 ウマが行進する時はどうしても頭部が上下するが、上下が少なければ少ない程、振動が抑えられている、といえる。 振動が少ない方が乗り心地もよいだろうし、品もあるが、ウマ式歩行特有のキビキビしたキレは乏しいので、ダイナミックさに欠けて見栄えはしない。 身体の上下がある方がいいか、無い方がいいかは甲論乙駁あるだろう。
ここでは『地面をあまり掘らないよう気を付ける露馬』と『行進時に身体を鉛直方向に揺らさないよう努める露馬』が、どちらも『他者への配慮を重視する』性格だと定義する。 その上でランダムに街から連行した露馬５頭をメリーゴーラウンドに繋ぎ、１０時間の無休息ウマ式歩行を実行した。 その中で最も地面へのダメージを抑えた露馬１頭を選び、蹄の形を測定した。 続いて別に５頭の露馬を選び、１０時間の馬場外周行進を課した。 各馬の乳首に分銅ベルを接続し、最もベルの音色が小さかった――即ち振動が少なかった――露馬の蹄型を測定した。 結果、どちらの露馬も美しい正円型の馬蹄をしており、以上の検証から『正円型の馬蹄は、他者へ配慮する性格をもつ』ことが証明された。
なお、この後『正円型の馬蹄をもつ露馬１０頭』と『その他型馬蹄をもつ露馬１０頭』を抽出し、それぞれ１０時間のメリーゴーラウンド、１０時間の外周行進をさせ、前者が『堀りが浅く音色が小さい』ことを確認することで、検証結果を裏付けるわけだ。
他にも『汚物浣腸をして、漏らすまでの時間が長い方が我慢強いウマ』『バラ鞭を乱打して、悲鳴の嘶きを叫ぶまでの時間が長い方が我慢づ位良いウマ』と定義し、我慢強いウマの馬蹄が『長円型』なことを実証した回がある。 また、制限時間を告げずに４０ｋｇの砂嚢を背負わせ、倒れるまで行進させた時、太腿が水平に上がらなくなるまでの時間が長い方が、より従順なウマ』『２日間水のみ与えて餌を抜き、飼い主の許可は与えない状態で、餌を正面に放置したとき、我慢できずに無断で餌を貪るまでの時間が長い方が、より従順なウマ』と定義し、従順なウマの馬蹄が『楕円型』なことを明らかにした回がある。
このようにして『蹄』から分かる情報を整理し、視聴者に豆知識として届けるのだが、視聴者からすれば『露馬』の我慢強さや酷な扱いを知ることができるので、ウマに対する関心の強化につながっている。 なお番組が扱う露馬たちは、事前に一切の通告なく街頭から連行されている。 『２ｃｈ』へ無制限に協力することは、露馬に、いやウマにとって、ヒトへの絶対服従すること同様に暗黙の掟だ。
『ウマは歩くのが上手い！』『ハミから舌がはみ出した』みたく、ウマに掛けたダジャレが毎回番組の最後に放送され、わざとらしく合成した爆笑と共に幕が下りる。