第1話 女教師、発情-1
男性が分泌するホルモン物質の中には、女をして、淫靡なる欲情の高揚に至らしめる作用を持つものがある。それを抽出し、濃縮したものが、催淫物質、つまり、媚薬だ。それを吸引させられた女は、否応なく性の快楽への渇望を、その身に覚えるようになる。その脳に刻まれた、エロティックな記憶が、本人の意思に関わらず次々に引き出され、想起される。
一方で、その股間は疼《うず》きを覚え、刺激を求め、熱く火照る。性感帯の感度は上がり、衣服との摩擦、風の圧力にも快感を覚えてしまう程だ。
弥生は、女生徒2人と参考書を物色していたが、彼女が何気に手に取った参考書に、その媚薬が吹き付けられていた。媚薬は、空気中に放出されれば、数分で効力を失うようなものだが、参考書に吹き付けられたのは、1分も前の事では無い。弥生と女生徒2人が来店した瞬間に、彼女達が参考書を手にするであろうと予測した涌井が、手下でもある店員に、そうするように指示を出したのだ。
吹き付けられて1分も経っていない新鮮な媚薬は、弥生に吸引され、直ぐに効果を現した。
女生徒2人の言葉に、笑顔ではきはきと応えていた弥生だったが、次第に声のトーンが低くなり、言葉を紡ぐペースが遅くなり、視線は遠くを彷徨い始めた。十分な男性経験を持っているのであろう弥生の脳裏には、過去の性行為が、その快感が、ありありと想起されているだろう。過去に目撃した男性器の克明なビジョンが、瞼の裏に甦っているだろう。
女生徒2人に、そんな事を悟られては、決していけないと、懸命に明るくはきはきと振る舞おうとしているのだが、欲情の高まりは、完全に抑え込めるものでは無かった。呼吸までが、少しずつ、早く、深く、なって行った。
「先生?どうしたの?」
早苗が、弥生の様子に気づいて、声を掛けた。
「うん?別に、何もないわよ。」
「でも・・、なんか・・」
「・・あ、・・ちょっと、疲れてぼーっとして来たかも・・、少し、あっちで休んでるから、2人は参考書を、選んでいてね。」
「うん、分かった。先生。」
弥生は、女生徒2人から離れていく。女生徒達は、ちらりと心配気な視線を弥生に見せはしたものの、また別の参考書を手に取り、それを見ながら、ぺちゃくちゃとおしゃべりを始めるのだった。
弥生は歩いて行く。その経路は、涌井が計算した通りのものだった。彼が思った通りの場所に、弥生は向かって行ったのだった。出来るだけ周囲に人のいない空間に身を置きたがるであろうとの読みから、彼女が向かう先は予測出来たのだ。
弥生が身を落ち着けた場所からは、遠くに男性専用書籍のコーナー、つまり、エロ本のコーナーが、本棚の隙間から少し見える。それも、涌井が計算してそのようにしてあるのだ。媚薬を吸引した弥生が、そこに移動してエロ本を目撃する事が、涌井によって仕組まれていて、その通りに実現したのだ。
媚薬によって欲情を掻き立てられた状態で、裸の女が淫らなポーズを採っている雑誌の表紙を目撃したのだ。もとから欲求不満気味な彼女が、脳裏に過去の性体験や男性器の光景を思い浮かべている最中に、そんなものを目撃したのだ。その視線は、エロ本の表紙から離れなくなった。