36歳の婚活 本編5頁目-1
佳奈は必ず来てくれる。縋る気持ちで眺望を眺めて今を逃避していた。
「部屋に戻る気は無いようですね」
直人は残念そうに呟いているようだった。わたしはこれでも「綺麗な女性なのよ馬鹿にしないでくれるかしら」と思いながらまだ来ない佳奈を待っていた。
「それではそこに暫く居て下さい」
直人はそう告げるとダイニングの側面にある扉を開けて出て行ってしまっていた。
「ちょっと何処にいくつもり」
そう声を掛けたが扉は締まり神経質な機械音が施錠を明らかに伝えていた。「嘘でしょ」わたしは咄嗟に立ち上がり直人が出て行った取手を何度も捻ろうとするが全く動かず完全にドアの役目を停止されているようだった。リビングにある全ての扉を試してみても結果は同じで完全にリビングに閉じ込められてしまっているようだった。
扉を叩いていた音は止みリビングの大きな鏡が不気味にわたしを見つめていた。わたしは全てを撮られる恐怖を思いだし鏡を避けるようにダイニングの壁に据えられた椅子に腰を降ろしそのときを待つことにしていた。
窓際の景色が薄っすらと夕餉を告げる頃、わたしはまだダイニングから動けなかった。早く帰らないと旦那が帰ってきてしまう焦りと今だに来ない佳奈に怒り覚え苛々と椅子に伸ばした綺麗な曲線を描く脚先を伸ばして脚の指を怒りに任せてぎゅっと握っ途端、スカートから覗かせていた美しい太腿が攣り上がり椅子から転がるようにダイニングに寝転んでしまっていた。
「痛いわ、痛い」
本当に痛いわたしは届かない指先に手を伸ばし真正面から覗かれたら「とんでもない股間が見えてしまうわ」と恥じらう姿に軽く濡れてしまい苦笑いをしてやり過ごすことしかできなかった。
「本当に痛いわ。早く来なさいよ」
不貞腐れたわたしは仕方なく恐怖を抱きながらも天鵞絨のソファーに腰を掛け全く作動しない大型モニターのボタンをポチポチ押しながら「何も点かないわね」と鏡に映る素敵な身体をわたしに向けて口説くように股を開いて微笑んであげて暇を潰していた。
眺望が本当に薄暗くなり夥しい光が遠くに映る窓を眺めリビングの電気が点かないわたしの心は再び孤独に襲われ「怖いわよ」と苛々と真っ暗なリビングを映す鏡に恐怖を感じていた。
そんなわたしに構うことなく刻々と時刻は進みリビングは本当の真っ暗闇に包まれ、わたしは恐怖に襲われ震えるようにダイニングの椅子に戻って膝を抱えるように助けが来るのを待っていることしかできなかった。