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没作品 硝子の心 処女作
【若奥さん 官能小説】

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36歳の婚活-1

都内を羨望できる窓際に置かれた一脚の本革ソファーは豪華なリビングに相応しく凛々しく都内を見下ろするように配置されていた。

「ここですよ」
「さあ、どうぞ」

大理石張りのリビングに砕け落ちた硝子の破片を眺望の光が眩しく輝かせビンテージソファーの背凭れに手を掛けてわたしを誘う直人の姿は逆光で薄暗く反り返った勃起の影すらも不気味に暗い影を映しだしていた。

「破れたストッキングで座ってもいいのかしら」

床に散らばる硝子の塊に視線を落とし「ここからが勝負よ」とわたしはお腹に力を込めて立ち上がり「できる限り上品に歳相応の振舞いで挑むのよ」と強く心に言い聞かせていた。

「やだわ。グロスも綺麗に塗り直さないといけないわ」

天鵞絨のソファーに手を伸ばして打ち付けた腰を宥め肘掛に片脚を載せてわたしのペースに引き込もうと破れたストッキングをさすり汚らわしい大きな鏡を見る振りをしながら口許の気持ち悪い液体を指先で払うように撫で直していた。

「ストッキングですか」
「そらなら幾らでもありますよ」

直人は当たり前のようにイタリア製のブランド名をすらすらと読み上げ「どちらが好みですか」とわたしの知識を試すように嘲笑いながら話に載ってきた。

「そうねスイス製のギャツビーがいいわ。グロスはイギリス製のグロリエンスが欲しいところね」

普通の24歳はまず知らないブランドだ。わたしはペースを掴もうと必死だった。

「わかりました」
「ここに座って景色でも眺めて待ってて下さいね」

直人は無防備にわたしをリビングに残して何処かの部屋に向かうように歩きだしていた。

逃げれる。

咄嗟にわたしは出口を探して辺りを見渡してしまっていた。

「無駄ですよ」
「この部屋は特別なんですよ」
「まだ分からないんですか」
「携帯の電波すら届かせてませんから」

そう言い残して異常な姿の直人は遠くの扉に向かって消えていった。

今を逃すわけにはいかなかった。確かに携帯の電波は届いてないがダイニングに向って片っ端から抽斗を開けて鋭利な物を探して隅々を散らかしていたその時だった。

「わかりやすい方ですね」
「まだ分からないんですか」
「最初から全て決まってるんですよ」

直人は言われた通りスイス製の高額なギャツビーとわたしですらブランド名が解らない豪華なダイヤモンドを側面に嵌めた新品のグロスを投げ渡して言い放っていた。

わたには何も言葉を返すことができなかった。足下に転がるダイヤモンドの側面が横を向いてわたしを見詰めていた。

本当に敵わないかもしれない。
打ちのめし方がわたしの日常を超えていた。

「勘違いよ。素敵なダイニングを観ていただけよ」

自暴自棄に足元の高額なギャツビーを拾いダイヤモンドのグロスを手に取ってリビングで砕けた硝子を箒で掃除する直人に向かって強がることしかできなかった。

「掃除が終わりましたら着替えてそちらに向かうわ」

速く鎮めて終わらすために平静を繕ってダイニングの壁に隠れて高額な高級ストッキングに脚を通して直人を落とす機会を探していた。

「そこにスイス製に相応しい一式を用意したからそれに着替えて下さいね」

硝子の塊を箒で片付け終え硝子テーブルを支えていた長い樹齢が伝わる欅の幹を両手で持ち上げながら直人はダイニングの横に置いた未開封の大きな箱を差しながら促していた。

言われるがままにその位置に視線を向けるとそこには綺麗にラッピングされた国際便で届いたと分かる関税の捺印が貼られた場違いに大きな箱が無造作に置かれていた。

「何かしら。わたしにプレゼントかしら」

傲慢に振舞う直人に激しい怒りの視線を向けながら引き千切るように箱を開けたわたしは更に打ちのめされるように深い溜息をこぼしていた。

箱の中に揃えられた豪華な一式は明らかにオーダーメイドで仕上げられたと分かるエレガントな刺繍が施されたドレススカートとその横に几帳面に畳まれた透明に透ける可憐なキャミソールが置かれ箱の脚元にはピンクヒールが輝く憧れのパンプスが横を向いて揃えられていた。

見ている世界観が遥かにわたしを超えていた。

本当はこういう男をわたしは求めていたはずなのに凄まじい行動力で打ちのめす異常な直人の姿を思い出し強い心でその誘惑を振り払ってドレススカートを身体に併せていた。

「サイズ、合ってるわ」

驚きの呟きを隠せなかった。測ったようにドレススカートの胸元は程良く膨らみ背丈は膝上に確りと綴じるように繊細な刺繍で練り込まれ腰回りは緩んだウエストを誤魔化せるように見事な曲線で仕上げられていた。

「分かってるんですよ」
「あなたは168cmはあります」
「胸下はまだFの70を保っているはずです」
「歳と共に少し肥えた腰回りとお尻はぎりぎりの曲線を描くために60キロを越えないよう59キロ前後を維持してるはずです」
「靴のサイズは23cmで合ってますよね」

全て正解だった。恐ろしく的確な指摘にびっしりと背中の鳥肌が立ち上がっていた。初回の食事だけでここまで正確な寸法を調べ上げ、2回目の食事には全ての一式を手配した行動力に鳥肌が留めどなく全身を震わせていた。

綺麗に掃除を終えた直人は天鵞絨のソファーに姿を隠して淡々とわたしの身体を指摘し続け全ての正確を確かめるように笑っているようだった。

震える身体を手摺に支えながら呆然と眺めた大きな箱の隅に小さな小箱が3個配置されていることに気が付き恐ろしい眩暈を堪えていた。


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