夜ふけに お兄たまのお部屋へ-1
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私は妃緒菜(ひおな)、高校二年です。
私とお兄たまとは、十五歳年が離れています。
お家で商売をやってて、忙しいお母たまとお父たまに代わって、私の物心ついた時から、お兄たまはいつも私のそばにいてくれる「おとなのひと」でした。
学校の行事や参観日、三者面談の時までお兄たまは「保護者」として来てくれました。
少年そのものの姿のお兄たまは、クラスの女子も男子も注目しちゃうカッコよさです。
だから、誰にも言えないけど私にとってお兄たまは「一緒に暮らしてる彼氏」みたいな存在なんです。
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その日の夜ふけに私は、お兄たまのお部屋をたずねました。
お兄たまはもう立派な「お父たまの部下」だったりするので、お部屋でタブレットを操作してお仕事してました。
私はお兄たまに言いました。
「お兄ちゃん(ふだんは こう呼んでます)……、今日夕方、テレビで怖いの見てしまって眠れないの。」
お兄たまはタブレットから目をはなして私を見ました。
「どんな怖いの見たの?」
「あのね、私くらいの女の子が、いつのまにかストーカーに狙われててね、夜になると女の子の家のそばをうろうろしてるのを、防犯カメラで記録してたの。
それで……ストーカーの男のひとが、女の子の部屋の窓めがけて、こうやって…豆をゴムで飛ばしてぶつけてたの。
なんか……その時の、パシッ パシッっていう音が、私のお部屋の窓にも聞こえてるみたいな気がして、眠れないの……。」
私の話をひと通り聞いて、お兄たまは言いました。
「妃緒菜は、怪奇ものや恐怖ものとかは平気なのに、そういうリアルなものに弱いからなぁ〜。
それで、その女の子は無事だったの?」
「うん……、捕まって連れて行かれた。」
「妃緒菜は可愛いからなぁ〜。そんな奴に狙われないか、俺も心配だ。
まあ、男がみんなそんな奴ばかりじゃないけど、いちおう近寄ってくる男みんなに気をつけてよ。」
お兄たまが、私の髪をなでました。
「俺が守っているからね。」
そう言われて、私はフッと意識が遠くなりました。
目を開いたら、私は自分のベッドの上でした。
そしてカーテンの向こうが明るくなっていました。
お兄たまは、私をお部屋まで運んできちんと寝かせてくれたんです。
お兄たまは、こうして私の変な迷いや苦しみを取りのぞいてくれるのでした。