投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

《見えない鎖》
【鬼畜 官能小説】

《見えない鎖》の最初へ 《見えない鎖》 64 《見えない鎖》 66 《見えない鎖》の最後へ

〈二人だけの宝物〉-21

『……花恋、今日はどうしたの…?』

「ッ……!!!」


英明の質問に、またも花恋は俯いて沈黙する。
何かとんでもない悩み事を隠している……英明はそう感じざるを得なくなっていた。


「どうって…どうもこうも何も……?」

『俺には言ってもいいんじゃないか?それとも俺じゃ役不足だってのか?』


ここ最近の花恋は、とても〈まとも〉には見えなかった。
何か悩み事を抱え、その悩みで頭が一杯になっているとしか思えなかった。

それを何故、彼氏である自分に打ち明けてくれないのか…?


実は英明は怒っていた。


花恋を心配するあまり、一人で全てを抱えて隠し続けようとする《彼女》が、いじらしくも腹立たしかったのだ。


「……あの…だから何ともないって!私は大丈夫なの!」

『何が大丈夫なんだよ?俺に何か隠してるって分かってんだよ!それにその“匂い”は何なん……ッ!?』


しまった…!

英明は怒りに任せて要らぬ言葉を口走ってしまったとハッとした。
“匂い”は誰しも気にする物であるし、ましてや女性相手に口にするなど、デリカシーに欠けるなどというものでは無いだろう。

しかも英明の相手は花恋である。
情緒すら不安定な花恋には、決して言ってはならないはずだったのに……それを悔いてももう遅かった……花恋は捻り潰された紙のようにグチャグチャに顔を歪め、ボタボタと大粒の涙を落として英明を見ていた……。


「く…臭いんだ…?私って臭いんだ?そ、そうよね?私って汚くって臭いんだもんね…?」

『わ…悪かった……今のは俺が…ッ!』


花恋は踵を返して駆け出す……何度も腕を掴み、引き止めようとする英明を振り切り、街行く人々の視線も気にもせずに泣き喚いて駆けていく……。


(もう終わりよ…!もうッ…もう終わりよッ!)


息が切れ、脚が上がらなくなっても花恋は走るのを止めない。

この全力疾走で爆ぜて痛む心臓も、そのまま破裂しても構わない。
衝撃に曝される膝が砕けても、それが何だと言うのか?

気が付けば花恋は母・貴子と二人だけで暮らしていたアパートの前にいた。
随分と古ぼけた二階建てのアパート……つい数ヶ月前まで我が家だった住宅は、花恋の思い出を“思い出”のままにするように、他人の表札が下がっていた……。






《見えない鎖》の最初へ 《見えない鎖》 64 《見えない鎖》 66 《見えない鎖》の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前