第21話『挨拶我慢選手権』-2
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『挨拶我慢選手権』
出演者。 誠意がない虚礼な挨拶をした女性10名。 10代後半〜20代前半。 『叔父、叔母など三親等の親族に対し、気持ちが籠っていない挨拶をする』『上司との挨拶を嫌がる』『父親に対して生意気な態度をとり、碌に挨拶しない』『担当教官と挨拶する際に、常に受け身で自分から挨拶にいかない学生』らに対し、まずはじめに虚礼に憤った者(たいていは不義理を受けた本人)が告発する。 この内部告発を受けて軍がCCカメラによる内偵・裏付けを行った結果、確かな虚礼が確認されて、それぞれが傲慢罪で確保された。 『軽度傲慢罪に課せられる懲役1年』ないし『番組出演』を天秤にかけた上で、彼女たちは番組出演を選んだ。 つまり、全国ネットで自分の傲慢を反省し、許しを請う姿を放映してもらうために、ここにいる。
ルール。 椅子に腰かけた告発者に対し、女性が『虚礼』を詫び、改めて『正式』に挨拶する。 告発者は、女性に挨拶を返してもいいし、女性の反省に疑いをもっていれば、挨拶を返さなくても構わない。 1時間以内に、女性が告発者から『正式な挨拶』を交わして貰えれば、女性の虚礼は特赦される。 一方、最後まで告発者から挨拶を受けることができなければ、『街頭挨拶訓練』を経て正式に処罰されるという運びだ。 正式な挨拶を交わしたかどうかはモニタリングで判定されるが、基準は挨拶の種類によって異なっている。 『親族間』であれば、両者が『舌を唇よりも外に出した状態で絡ませ』て『自分の唾液を相手の口腔に2mL以上塗りたくる』ことで挨拶が完成だ。 『親友間』であれば、唇同士で『2Kdb』以上音が鳴れば合格する。 『一般間』ならお互いの唾液が相手の顔についた時点で挨拶が済んだと見なされる。
告発者に課された制約は、椅子から動いてはならず、自分から女性に触れたり、服を脱がせたり、また自分の服を脱いだりは禁物なこと。 女性は喋っても構わないが、原則として告発者は沈黙する。 もしも相手に何かを要求するような発言があった場合、その時点で女性の挨拶を受け入れたものとみなされるためだ。 一方で女性に課された制約は、告発者と身体が接するのは構わないが、手で触れて良いのは椅子のみで、告発者に抱き着いたり、抱きしめたり、お触りしたりは罷(まか)らないこと。 衣服を脱ぐ、脱がすといった行為は相手が許諾した場合においてのみ認められる。(例えば、『脱いでもいいですか』と伺いをたて、構わないとなって初めて、服を脱いでもいいわけで、勝手に脱いではならない)
以上の『ルール』がテロップで流れ、画面が切り替わる。 壁一面が白一色に塗られた部屋。 中央に豪奢な椅子が設(しつら)えてあり、恰幅のよい中年男性が、深々と腰をおろしていた。 と、部屋のドアが開き、シースルーのキャミソールをつけたうら若い女性が現れる。 女性はほっそりした顎に切れ長の眉、小動物のように潤んだ瞳の持ち主だ。 決して整った目鼻立ちではないけれど、せりだすバストの肉づきの良さと相俟って、身体中からピンク色のオーラがあ漂っている。 彼らが最初の出演者であり、2人の関係は『夫婦』である。 ただし、一つ屋根の下で暮らす夫婦ではない。 諸事情により別れて暮らす2人が何故この場に居合わせるかといえば、同居解消後に久しぶりに街ですれ違った時、男性は挨拶しようと近づいた。 それだのに……女性は無視して逃げだしたのだ。
『あなた……おひさしぶりです』
喘ぐような、それでいて呟くような語り口。 素肌にまとったシースルーが艶めいている。 女性は、かつて愛した関係とはいえ、いまでは男性に対して嫌悪感しかもっていないが、既に『今日だけは』と腹を括っている。 目を閉じて口を堅く結ぶ男性に、脇から身体を密着させた。 豊満な乳房がへしゃげる感触に、男性が薄っすら瞼を開く。 男性の頬のすぐ真横に、ポテリと色めいた唇があった。 手は椅子のひじ掛けを掴み、身体ごと男性を頬ずりだ。 下半身に目を移せば、まるで娼婦のように足を延ばし、男性の脚に絡ませる。
『この間はごめんなさい……あんまりいきなりだったし、心の準備ができなくって。 どんな顔をすればわからなくて、つい逃げだしちゃって……でもよかったわ。 あれっきりにならずにすんで』
チロリ……舌先で男性の耳たぶを擽(くすぐ)る。
『ふぅん……懐かしいわ、あなたの匂い、かわらないわ……。 結局タバコ、止めなかったのね。 ううん、責めてるつもりじゃないの。 っていうか、あたしはタバコを吸う男の人が好きだから、ちょっぴり安心しちゃったわ……あん』
胸、頬、下半身をグイグイ男性に圧しつけながら、女性は次第に吐息を荒げ、鼻にかかった喘ぎを漏らす。
チュッ……チュッ……クチュ……。 あんむ……れろ……ぴちゅ……。
耳から首へかけて、男性の荒れた肌を啄(ついば)む女性。 キスマークが残りそうで残らない、絶妙な舌遣いが肌を這う。
『ね、お許し下さるわね……? どうかあたしにご挨拶させてください。 少しだけ離れているったって、あたしにとって、あなたとは大切な思い出ばかりです。 なにより……なによりあんなに愛してくださったこと、あたしは昨日みたいに覚えてます。 お浣腸も、お聖水も、黄金様も……大切なことは、全部あなたから教わりましたわ。 その節は、若いだけで物知らずな白痴娘を囲っていただいて、本当に感謝していますの。 だからどうか……』