〈楯と牙〉-1
『ごちそうさん。今日の夕飯も美味しかったよ』
誰よりも早く夕飯を食べ終えた裕太は、ちょっとだけぶっきらぼうな様子でさっさと二階に上がっていった。
(なに、あの態度。悔しいんだ?バ〜カ!)
花恋は裕太の態度を見て、一人ほくそ笑んでいた。
昨日のように、今日も英明に電話をするつもりだ。
仲の良さを徹底的にアピールして、自分に何かあったら“ただじゃ済まない”と思わせてやるのだ。
「ごちそうさま。私も美味しかったよ、お母さん」
花恋はスタスタと歩みを進め、階段を上っていく。
スマホはオレンジのチェック柄のYシャツの胸ポケットに入ってるし、これさえあれば怖いものなどない。
ちょっとキツめなジーンズの腰回りを擦りながら二階へ……と、そこには裕太がニヤニヤと笑いながら立っていた。
「……何よ?私、いま忙しいの」
口をへの字に曲げて花恋は苛立ちを表すと、裕太を無視して部屋に入ろうとする……しかし、裕太は花恋の右腕を掴んで強く引っ張った……。
『……騒ぐなよ。オマエ“終わっちゃう”よ?』
「なッ!?な…にを……」
いきなりギラついた裕太の眼光と、恐ろしい〈何か〉を予感させる言葉に気圧された花恋は、引っ張られるがままに裕太の部屋に引き摺り込まれた。
ドアは閉められ、スマホは引き抜かれてベッドに放られる……花恋はまたも《一人》になった……。
「何すんのよ…わ、私には彼氏が居るんだから…ッ」
『彼氏が居るから何だってんだ?そんなの俺には関係ないぜ?』
裕太は全く怯みもしない。むしろ怯んでいるのは花恋の方だ。
視線はオドオドして泳ぎ、膝は早くもガクガクと震えている……。
『オマエの部屋、いま凄〜く散らかってるぜ?床一面が、誰にも見られたくない写真でいっぱいになってるからなあ?』
「ッ!?」
あの日の痛みや悔しさや恥ずかしさが、一辺に花恋の頭に甦った……汚された胸や股間を捉えた一部始終が、自分の部屋中に撒かれている……そんな事をする為に早く夕飯を済ませたと考えるのが妥当だろうし、まさかそんな真似をするとは夢にも思わなかった……。