第15話『売笑オークション ウィップ・プライス』-3
『そもそも対価がユーロということですから、オークション参加のみなさまも、視聴者のみなさまも、ここはかつての価値観で行動していただきます。 この番組内で獲得した物品に関して増しては、8月より施行された一切の法律を適用いたしません。 ゆえに自慰に使っていただいて結構ですし、『ハイグレ』と叫ぶことなく身に着けていただいて構いません。 こちらで購入した物品があるだけで、随分法の網が緩まりますことは保証いたします。 例えば原則禁止とされる自慰であっても『オークションで購入した物品を用いた自慰』となれば、法の限りではなくなります。 そういった特殊事情も考慮して、最低落札金額は1000ユーロ、上限は設けておりませんので、どうぞお知り置きくださいませ』 既に説明を受けているのか、客席は特に反応しない。 客席はほぼ全員が男性で、誰もが使い道が無くなったユーロの札束を、カバンにパンパンになるまで詰めて持ってきていた。 『また、当オークションですが、主催主体を『民間業者』と偽って、世界各地の好事家たちも同時放映しております。 通貨は『ユーロ』ですが、皆さまの競争相手は全世界でございます。 ゲストが出品した品々を当会場に足をお運び頂いた皆さまに確実に競り落として頂ける保証はございませんが、その点につきましても、併せてご理解を願います』 ガラガラガラ……。 ステージの右側に大きなモニターが運び込まれた。 モニターには沢山の男性が映っていた。 彼らは他国出身で、『ウィップ・プライス』にネット経由で参加申し込みをした者たちだった。
『それでは、本日のゲストです。 自治区南部スラムにお住いの美人姉妹。 妹のリコ・マンゴルトさんと、姉のリタ・マンゴルトさんです。 お2人ともステージ中央へどうぞ〜』
拍手と共に、年端もゆかない少女と、ようやく20代に達しようかという若々しい女性が現れる。 少女は薄手のショールを裸体に直接纏い、下着も、日焼けした肌も透けてみえる。 ショールはヒラヒラしたフリルでもって飾られていてお嬢様然としているが、肉づきが良くない身体からは骨が浮かんでおり、少女の印象は幸福とは対極にあった。 総体として心許なげに佇んでいて、隣の姉の手をちぎれんばかりに握りしめている。 対して姉はというと、派手な化粧とパツパツの服、ゴテゴテしたアクセサリーを纏い、いかにもゴージャスに彩られている。 ただし、明るい化粧の下をよぉく見れば、表情は引き攣っており、唇を噛みしめている。 『いやいや、今回もお美しい。 可憐な妹と豊満な姉、愛人にして丼ぶりにするには、理想的な姉妹ですねぇ。 お2人とも将来を約束した人はいるんですか? いないんなら、この場で募集してみては?』 どちらも、話しかけられても俯いたきり答えない。 2人とも煽情的な装いだが、本人が意図した格好でないのは明らかだ。 『わたくし、オークショニアであり、バイヤーでもあります。 本日も皆さまのため、素敵な商品をゲストから預かってまいりました。 さっそく最初の商品に参りましょう!』 こうしてオークションが始まった。
オークションの流れは次の通り。 少女たちの背後にあるパネルに、次々と出品物が映し出される。 その都度、会場参加者とネット参加者から金額が提示され、次々金額があがってゆく。 最も高い金額を提示したものが競り落とすのだが、更に高額な提示が30秒間なかった時点で、その時の最高額が落札価格になる仕組みだ。 落札が決定したとき、旧世紀のオークションでは木槌で木版を叩く。 一方、この番組では司会者が『一本鞭』でゲストのお尻をしたたかに打つ。 『ビシィッ』、ゲストが歯を食いしばって痛みに耐えることで鳴り響く鞭の音によって、落札の達成感が増幅する。
1品目。 【姉妹に『股枕』で耳かきして貰える権利】(ネット参加者が『1000ユーロ』で落札)
その名の通り、全裸になった少女の股間に顔をうずめ、耳を掃除してもらえる権利だ。 ただし股間を舐めたり、指を入れたりといったオプションはつかない。 耳かきして貰う間はジッとしていなければいけないので、あまり汎用性はないといえる。
2品目。 【姉妹が『ふとん』を温めてくれる権利】(ネット参加者が『1000ユーロ』で落札)
寝る前の寒い布団を、2人が事前に温めてくれる。 ただ黙って布団にはいって体温で温めるわけではなく、暖め方も決められていて、2人は布団の中で全裸になり、お互いの身体を密着させ、激しく布団に身体を擦りつける。 摩擦熱でもって温度を高め、互いの汗でもって湿度を保ち、人肌の温もりが再現できるまで身体を擦り合わねばならない。 『姉妹が布団を温める様子』を司会者が事前に撮影しており、布団の中でモゾモゾを服を脱ぎ、姉と妹が足を絡ませて上下に激しく動く様子は、布団に隠れて詳しいことは分からなくても、そこはかとなく風情がある。