〈蜉蝣の飛翔〉-11
「ヒック……ヒック…よ、良かったね、お母さん…ッ…ヒック……よ…良かっ…ひぐッ!」
あんなに喜ぶ母の顔を…………………
花恋の《答え》は変わらなかった。
いや、変えられなかった。
大学に入学するまでの一年半を、花恋は母に悟られぬよう耐えきろうと思った。
何処か遠くの大学に入り、誰も自分を知らない環境の中に身を投じ、素敵な彼氏を作り、あの兄弟が近付けぬように一緒に暮らすのだ。
(………彼氏…!?)
不意に英明の事が頭に浮かんだ。
何も大学に行くまで待つ必要は無い。
英明を自宅に呼んで二人の“関係”を見せつけ、夜遅くまで通話してレイプへの意欲を削がせ、休日は全て英明とのデートで埋めてしまえばいい。
(仲直り……そうだ、仲直りしてまた二人の……ッ!?)
……今度の休日は、もう《予定》が入っている。
もし必死に謝って仲直りをしたとしよう。
そうなれば、おそらく英明は『休日に会おう』と言うはずだ。
その日、花恋は英明には会えない……。
「会ってくれなかった」と詰っておいて、その本人が「会えない」と断るなど有り得ない。
ポゥッ…と浮かんだ希望の灯火はフッ…と消えた。
やはり花恋の目の前に敷かれた運命のレールは、悲劇に向かってまっしぐらに伸びている……。
『うん…うん……花恋、ありがとう』
母は何も知らない。
花恋が今、どんな生き地獄の最中に置かれているのかを。
姦され続けるしかないと分かっている、この残酷な生活の直中に縛られている事を……。
……………
………
…
いつの間にか、花恋は泣き疲れて眠っていた。
目は腫れぼったくて人前に出たくないほどになっていたが、学校を休むという事は生き地獄への入り口に自ら入り込む事を意味する。
朝食もそこそこにベッドの中で制服に着替えた花恋は、重い身体を引き摺るようにして学校に向かった。