〈特別な日〉-4
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待ち焦がれた日曜日。
楽しくて〈特別な日〉になるはずだった今日という日は、今しがた“LINE”で送られてきた英明の親類の不幸事という突発的な出来事により、哀しくも立ち消えとなった。
落ち込みながら食べる朝食は美味しさを半減させていたし、太股も露わなピンクのワンピースも今は虚しいだけ。
予定も無くなったつまらない日曜日を潰そうと、花恋は洗濯機を回した。
『花恋、裕樹とちょっと出掛けてくるよ』
「う…うん、分かった。気をつけてね」
納期が迫っているからと、父親と母親は休日返上で朝早くから工場へ仕事に行っている。
裕太と裕樹は手伝うでもなく、何処かに遊びにいく体たらくを恥じてもいない様子だ。
[早く自分も働ければ……]
思い返せば、父親が他の女と一緒に消えた後の貴子との二人暮らしは、決して裕福ではなかった。
いや、貧乏という表現を否定出来ない生活だった。
狭いアパート暮らし。
貴子はなかなか定職に就けず、様々なバイトで稼ぐ毎日。
勿論、花恋もある年齢からバイトを始め、少なからず家計を助けていた。
そんな花恋は一度だけ、母親と街を歩いていた時に芸能事務所の人に声を掛けられ、アイドルとしてスカウトされた事があった。
花恋は内心「これで母親に楽をさせられる」と思ったのだが、母親の「絶対に駄目だ」との猛反対でアイドルデビューの話が消えた事もあった。
[赤の他人にチヤホヤされる虚構の世界に生きるより、地に足を付けた真っ当な人生を娘には歩んで欲しい]
真面目な貴子の、娘の将来を案じる母親らしい思いは、鉄より堅かったのだ。
そんな母親と慎ましく暮らしてきたのだから、余計に裕太と裕樹の遊び呆ける姿が花恋は気に入らなかった。
かといって、それを口に出来るほど気が強い訳でもなく、花恋は一人でブチブチと愚痴りながら洗濯物を自分の部屋に運び、一つ一つ干していった。
「……また無くなってる」
花恋は洗濯物を干す時に、また下着が一着無くなってるのに気付いた。
確かに洗濯ネットに入れておいたライムグリーンのブラジャーとパンティが、揃って消えていたのだ。
(誰かが……盗んでる…?)
一度ならず二度までも無くなるというのは、明らかに可笑しい。
そして、この部屋に入ってこれる人物は、家族以外には考えられなかった。