便利屋-4
ゲスト登場は、15時からだが、実演自体は14時から始まる。
「それでは桂木さんも食事をとっていただいて、スタート時間には現場でスタンバイしておいてもらえますか?私は、ゲストをお迎えに駅まで行ってきますので。あとは、桑橋を残しておきますから、彼が現場を仕切りますので、何かあれば桑橋と相談してください」 そう言って、やんちゃ娘なるゲストを迎えに行った。
出された仕出し弁当を早々に食べ終えた涼平は、控室に居ても手持無沙汰なため、イベント開始時間前であったけれど、早めに現場に行くことにした。
現場には、Z薬局本社の企画部以外にも、この店舗のスタッフが3名ほど借り出されていた。
スタッフに、今日のデモ運転を担当する者だと挨拶をし、テスト運転を始めた。
特に大掛かりな仕掛けがある訳でもないシンプルな機器。スイッチを入れ、間違いなく作動するかどうかだけ確認すればよい。
高齢者が操作することも考えて、操作方法や操作パネルなども極力シンプルにしたタイプの製品だから、わざわざ手伝いに来るほどでもない。
商品の説明というもう一つの任務があるとはいっても、Z薬局という大口の顧客に対するパフォーマンスが大部分を占めると言っても良い。
1時近くになると、一般店舗の一角で行われる催事事に、物珍しいのかイベント開始前にもかかわらず、チラホラと人だかりが出来始めた。
買い物途中の初老の女性が多い。無料体験ということなら、体験してみようかという面持ちの面々だ。
涼平は、桑橋に確認をとって、時間前ながらもデモンストレーションを始めた。
平日ながら、店舗自体の客入りもまずまずで、無料体験も相まって、イベント自体の滑り出しは上々だった。
ゲストイベントが始まる3時以降には、フットケア用品の試供品の無料提供サービスもあることから、時間が近づくにつれ、人が増えてきた。
「いやぁ、思ったより賑わってますね。上々ですよ」
迎えから戻って来た村本が、会場にやって来た。
「桂木さん、お忙しいところ申し訳ないんですが、中町さんがお見えになったので、打ち合せをさせていただきたいんですが」
ゲストを交えた打ち合わせは、先ほどの控室で行われた。
涼平は、ハマのやんちゃ娘なる人物がどんな女性なのか、興味津々だった。
村本とともに控室に入ると、中町有美と思われる女性が、試合用のユニフォームをバッグから取り出し、確認している所だった。
衣装代わりにユニフォームを着用するようだ。
彼女の第一印象は、『デカい』。とにかくそれだけだった。
身長は、170cm近い。ただ縦にデカいだけではなく、横幅もしっかりあるから余計に大きく見える。
『デカい』『横幅がある』といっても、決しておデブではなく、肩幅が広く、ガッチリとした体形だった。
茶髪で、肩を超えたロングヘアー、メイクもちょっと濃い。顔は、キツめの目が印象的で、やや角張った輪郭から、威圧感も感じる。
一昔前のスケ番グループに1人はいた、ガタイのイイパワフルな女性と表現したらわかり易いかもしれない。
もしかしたら、見たことがある顔だと期待をしていたのだったが、残念ながら顔を見ても、やはり知らない人物だった。
「中町さん。お着替えいただく前に、ちょっとだけ今日の打ち合わせをさせてもらってもよろしいですか?」
ちょっと扱いに難しそうな中町に対し、村本がごますりするように両手を揉みながら声を掛けた。
「いいですよ。ここでやるんですか?」
特に明るい感じでもなく、『仕事ですから、仕方ないですね』とも受け止めかねないトーンで中町が答えた。
後から村本から聞いた話では、迎えに行った車での会話や態度から、この仕事にあまり乗り気ではない様子が伺えたという。
そんな雰囲気から、ごますり気味のトーンで声を掛けたらしい。
「こちらが本日のゲスト。プロボウラーの中町有美さんです」
村本は、自分で中町有美を紹介しつつ、パチパチと率先して拍手を送った。
次々に本日関与するスタッフが紹介され、涼平も『マッサージ機の営業さん』と紹介された。
この日の流れは、オープニング、ゲスト紹介の後、ゲスト本人に実際にマッサージャーを体験してもらうことから始まり、4時から10分程度の簡単なトークショーを行う。最後に、地元のボウリング場とコラボしたミニボーリングゲームに参加してもらって終了となる。
「トークショーは、あらかじめもらった企画書に書いてあった質問をされるってことですか?」
台本のようなものが存在し、既に中町の手元にもあるようだ。
「ええ、基本的にはそのような質問をさせていただければと思ってますが、何か不都合でもありますでしょうか?」
謙るかのように下から下から話しかける村本。だいぶ年下の中町ではあるけれども、ゲストである彼女に対しては、お客様以上の扱いをしている。
「いえ、そうすると質問してくるのは、仕込みっていうか、サクラの方ですか?」
「一応、一般の方から質問を募りますが、もしどなたもいらっしゃらないようでしたらば、前もってお願いしている方がおりますので、そちらの方が質問することになります」 要はサクラである。
場の盛り上がりを考えると、多少なりとも仕込みを用意しておくのは当然だろう。
「何か不都合でもありますか?」
彼女の雰囲気を察し、無駄なトラブルや、進行に影響をきたすような刺激を与えたくないことがありありとわかる。
「別に問題ありませんよ。誰も手を挙げなくて、しらけるのが最悪のパターンですもんね」
意外としっかりとした営業を心掛けているものだと、涼平は少し感心した。
けれど、寄せ付けないような雰囲気は変わらない。威圧感と言ってもいいかもしれない。
涼平は、今日一日無難に過ぎていくことを祈った。