〈孤立工作〉-3
『先生のデータのお蔭でお店は大盛況っス。俺達の給料もかなりアップしたっス。表立っては誰も言いませんけど、みんな先生には感謝してるんスよ』
『そう?あのデータの娘なんて亜季ちゃんに比べたらゴミなんだけどな。でも、その辺のロリコンオヤジには垂涎の的のアイドルだろうから、お店が賑わうのは当然だろうね』
顎を突き上げ鼻をヒクつかせて悦に入る。
自信過剰で単純な長髪男は、あっという間に天狗になって傲慢な態度を見せだした。
飲み干したビール缶を握り潰すとそれを部下に手渡し、もう一本寄越せとばかりに掌をヒラヒラと揺らす。
そんな不躾な態度を取られても部下は嫌な顔すらせず、もう一本のビールを長髪男に手渡した。
『あんな“ゴミ”で良ければ幾らでもデータはあるんだぜ?16才を過ぎた劣化ババアとか、合法ロリとかいうクソ邪道アイドルとかさ。勿論、要望とあれば成長株のキュートな天使ちゃんも……クククク!』
『ヤバいっス!やっぱ先生ヤバいくらい凄いっスよ!もう神レベルっスよ、大先生!』
ほとんど太鼓持ちのようなお世辞でも、当然だという認識しかこの男は持たない。
それは思春期の頃から自分の世界に籠り、他人とのコミュニケーションを取らなかった事の弊害なのだろう。
『でも大先生って遠慮深いっスよね?たった一人の妹だけで満足するなんて』
『……ん?』
部下は二本目の空き缶を受け取ると、三本目と同時にさらりと“意見”を言った。
そしてビーフジャーキーの袋を開けて、それも差し出した。
『だって前園姉妹は大先生のお気に入りなんでしょ?なのに、なんで亜季ちゃんだけ自分の物にして……あ、コレは俺の意見じゃないっス。仲間の奴らの殆どが言ってるっス』
『………ふうん……』
クチャクチャとジャーキーを噛みながら、長髪男は目を細めた。
なにか言いたい事があるなら聞いてやらんでもないと言いたげに……。
『レジェンド級アイドルを独占しないなんて勿体ないっス!あの姉妹を一人で飼ってても可笑しくないと思うんスけどね?大先生ほどの《男》なら』
畳み掛けるように部下は煽る。
ゴクゴクと喉を鳴らして飲み込む様子からは、少しだが気の迷いのようなものが感じ取れた。