第６話『ハイ・グレ・ルーガ』-3
・ハイグレ人間アワー
レオタード姿で股布を『V字』に喰いこませた女性が、務めて無表情をつくりながら『ハイグレ、ハイグレ、ハイグレ、ハイグレ』と連呼する。 両手は股間に喰いこみをつくり、ハイグレの掛け声に合わせ、股間に『Vの字』を刻み続ける――ちなみにこの一連の動作を『ハイグレ・ポーズ』という――のが基本だ。 例えば『ハイグレ・ポーズで木の周りを回る』『ハイグレ・ポーズで犬の散歩をする』『ハイグレ・ポーズでブランコに乗ろうとして、ブランコから落ちる』『ハイグレ・ポーズでシーソーに跨り、股間を手摺にぶつけっこする』『ハイグレ・ポーズで大縄跳びを跳ぶ』『ハイグレ・ポーズでリレーのバトンを渡す』等々。 動作単体では何の面白みがなくとも、そこに『ハイグレ・ポーズ』を絡めるだけで諧謔味が満載する。
また、ハイレグ衣装にも様々ある。 紐パンツがお尻に喰いこんだ『Tバック式ハイレグ』があれば、スクール水着の股布だけV字に絞った『改造式ハイレグ』もある。 長方地の布と紐を組み合わせた『褌式ハイレグ』や、水着をきり抜いておっぱいやお臍が丸出しになった『孔開きハイレグ』、極細の布地で乳首だけを隠した『Vバック式ハイレグ』や恥丘すれすれまで股間とお尻に孔をあけた『Oバック式ハイレグ』もある。 どれも布地が限界まで引き絞られていて、あと数ミリ喰いこめば、隠れた具がはみだしてしまう極限レベルだ。 仮に具がはみだしてしまうと、場合によっては『猥褻物陳列罪』による別件検挙がありえる。 無表情なのは、羞恥により動きが鈍った場合はやり直しになるから、表情を努めて消しているに過ぎない。 ゆえに『ハイグレ、ハイグレ、ハイグレ、ハイグレ』と連呼しながらがに股でV字を作る女性陣は、平然と無表情を保ちつつも、内心では指先まで緊張している。 また『指の伸ばし方が甘い』『動きのキレが鈍い』『【Vの字】の角度がぬるい』『足の開きが少ない』『腰が浅い』と『ハイグレ・ポーズ』が無制限にやり直しになるため、一見すると無様な『ハイレグ・ポーズ』ではあるが、女性陣が『ハイグレ』にかける気迫は真剣そのものだ。
・ハイグレアネキ
日常の何気ない光景を俯瞰でしばらく映してから、一か所を一気にズームアップする。 そこには１人だけ周囲と異質なハイレグ衣装をつけた女性が、好奇の視線にさらされながら、『ハイグレ・ポーズ』で静止している。 俯瞰からどんどんズームアップし、カメラが女性の股間をレンズ全開に捉えたところで、女性は極め付けの大声で『はいぐれぇぇっ！』と力いっぱい叫んだ。 声の大きさが『１００ハイグレ（≒３００ホーン）』を超えれば合格だ。 越えなければ一度股間からカメラが離れ、再び股間の隆起１本1本が判別できるまで寄る。 女性はカメラが最も近づくタイミングに合わせ、再度『はいぐれぇぇぇっ！！』と絶叫する。 声の大きさが規定値をクリアするまで、何度でも何度でも繰り返すのが特徴だ。 通常は３、４回で合格になるが、場合によっては１０回以上を要する女性もいた。 なお、女性が『ハイグレ・ポーズ』で溶け込む場所は、女性のとって思い出深い場所が選ばれることになっている。 例えば、過去にピアノコンテストで入選した女性であれば、コンサート会場のピアノに跨ってハイグレ・ポーズ。 水泳大会で表彰台に立った女性であれば、２コースの飛び込み台に跨った上でハイグレ・ポーズ。 書道展に入選した生徒であれば、書道展の受付机に登ってからのハイグレ・ポーズ……という具合だ。 『ハイグレアネキ』に出演した女性は、法規を甘く見た代償に、かつての華々しい思い出がハイレグ色に塗り替えられることになる。
……。
更衣制限が女子限定のように見えるが、決してそういうわけではない。 男子には『必要即脱衣法』という法律が設けられ、更衣が必要な場合、男子は決して躊躇わずにその場で１度全裸になり、その上で更衣することになった。 これは男子が自分の裸体が衆目に耐えられるよう、日々鍛錬することを促す。 また男子の裸体は芸術であり、隠すことは世間に美を提示する機会の減少になる。 ゆえに『必要即脱衣法』には、男子の裸体が公開される機会を増やすという、隠れた狙いがある。 ただ、この法律には副次的効果があり、この法律の施行以降、男子は公衆の面前で全裸になっても『更衣の必要があった』といえば『猥褻物陳列罪』に問われることがなくなった。 女子は、当然公衆の前で全裸になるなど許されない。 女子が股間に備えている醜く卑猥な持ち物――いわゆるオマンコやクリトリスを衆目に晒すなど、言語道断、犯罪以外の何物でもない。
市民を待ち受ける不条理地獄、まだまだ始まったばかりである。