第23話 研修、女体盛り-2
「手分けしなきゃ終わらないよね」
「全部仕上げるのに5時間だから、2時間は料理にみておかないと」
「そんなこといって、何をつくるの? 材料もそうだけど、お鍋も包丁も何にもないんだよ? どうしたらいいの??」
「私に聞かないでよ! 知る訳ないでしょ!!」
「怒鳴らないでよ、もう! 落ち着きなさいよ!」
あれやこれや纏まらない話し合いをまとめたのは、結局専門生の1人ではなく、全体指揮をしている指導員とは別の、もう1人の指導員だった。 ザワザワといつまでも方向性が出せない専門生を見かねたのか、ふう、深いため息をついて話し合いの場に近づく。
「貴方たち。 全員お黙りなさい」
その一言で、ピタリ、喧噪は止んだ。
「まったく……いつまでも騒いでばかり。 いつも受け身で指示待ちだから、肝心な時に動けなんです。 自分で反省、総括しなさい」
ため息交じりの指導員の言葉を受け、すかさずその場の専門生は自分で自分の頬を張った。 パァン、パァン、小気味いい音が連続する。 赤く染まった頬が並び、指導員に視線が集まる。
「不本意ながら、今の貴方たちは発想そのものが存在しないようですね……。 指導に関わった1人として、ガッカリしています。 ただ、このままでは埒が明かないし、貴方たちにトレーニングが不足している点は、私の責任でもある。 どうするかの一例くらいは、提示するのは吝(やぶさ)かではありません。 ということで、そこの……【19番】さんでしたか、【20番】さんでしたか……『備品』の子。 貴方ならどうするか、参考までに教えてくださる?」
不意に話を【2番】に振る。 午後の部開始と共に五感の拘束を解かれていた『備品』の少女たちは、話し合いを傍観していたところに降ってきた依頼に、目をパチクリさせた。
「ああ、分かっていますよ。 ここで喋ること自体が『備品』の用途にそぐわないかもしれないことは。 ただ、指導員の私が頼んでいるわけですから、全く問題ありません。 あくまで貴方ならどうするかであって、正解も不正解もないわけですから、肩の力を抜いて自然に答えてくれればいいんです。 そうですね……そこの貴方。 一番右の子。 宜しくどうぞ」
当惑する3人の中で、指導員が指差したのは【2番】だった。 束の間逡巡するも、そこはクラス委員長として鍛えてきた【2番】である。 小さく息を吸いこんでから、伏し目がちに言葉を紡ぐ。
「そ、それでは、僭越ですが、私見を申し上げます。 まず最初に全体から15人を割いて、食材の調達に割り振ります。 メニューを決めるにも、食材がなければ始まりませんし、5品目をつくるにはそれなりの種類が必要と考えます。 幸い近隣には植生が自生していますし、海もありますので、5人を山、5人を池、5人を海に派遣すれば、それなりのものがあるでしょう。 時間は2時間と区切り、山では野草類を、池では小魚やザリガニを、海では甲殻類、貝類を中心に採集すればどうでしょうか」
【2番】の喋り口には、おずおずとした態度とは裏腹に淀みがなかった。
「残る10人のうち、5人には調味料と作ってもらいます。 といっても、調味料っていっても、すみません、お塩しか思いつかないんですが……海水を煮詰めて塩を作るとして、火がいります……ね。 火もないから……併せて火を起こす必要があると思います。 今日は日差しが強いですから、ピンホール系の穴に水滴を張って、上手くレンズみたくすれば……その、火が起こせるんじゃないでしょうか。 火起こし器を作って、摩擦熱でやっても何とかなるかもしれませんけど、ちょっとやったことないから、よくわかりませんが、難しい気がします。 どちらにしても料理にも火が必要ですので、何とか火を起こして、合わせて塩を作って下さい。 他にも味付けに仕えそうなものがあれば……海苔とか、茱萸とか……出来る限りたくさん集めた方がいいと思います」
遠慮しながら、それでもはっきりと喋る【2番】。 文化祭で発揮したリーダーシップを知っているクラスメイトからすれば、【2番】がハッキリ方向性を示すことくらいで驚きはしない。 けれども専門生たちからすれば、今まで『モノ』扱いしてきた少女が、スラスラと今後どうすればいいかを示唆している。 内心の驚きを隠そうともしない。 ついさっきまで右往左往していた自分達と比べれば尚更だ。