第３話『はじめてのオマンコ』-1
９月○日。
最近、彼方此方で気持ち悪いポスターを見かける。 『ニホン』の旭日旗と装甲車、そして騎兵が印刷された『ジエイタイ・アーミー入隊募集』のポスターだ。 なんでも現地、つまりあたし達ホランド市民でもって『ジエイタイ』所属の部隊を編成することになったらしい。 『軍隊に入れば配給が増加する』やら『軍隊に入れば犯罪歴が抹消する』やら、『定員１００名を超え次第、募集終了』『第一次応募者にのみ、諸々の特権あり』等々、超法規的な甘言が満載だ。 みんなポスターに応募するかどうかで盛り上がっているけれど、あたしは全く興味ない。 もしも軍隊に応募したとして、『ニホン』式では最初に軍馬からスタートだ。 街をウロウロしている騎兵がいて、騎兵が鞍上する全身ラバーに包まれたウマ型の女性、軍馬がいる。 あたしが軍馬になって誰か他の人を乗せるなんて、考えただけでゾッとする。 乗せるだけならまだしも、軍馬の存在は屈辱そのものだ。 騎兵が休憩するとき、軍馬が地面に手をついて『腰かけ』になっているのを見たことがある。 走るのが遅いという理由で、何度も嘶（いなな）きながら鞭打たれている所も見た。 軍馬の排泄は大小ともに、カッポカッポ歩きながら、止まらずに道端でさせられている。 他にもきっと、あたし達に見えないところで、軍馬は苛まれているに違いない。 やだやだ、絶対あたしはイヤ。
『家庭科』の時間、実習だっていうから期待してたら、何のことはない『２ｃｈ』の鑑賞だ。 録画した『はじめてのオマンコ』という番組をみんなで見た。 クリトリスに埋め込んでもらう『配給チップ』――あたし達は『クリチップ』と呼んでいる――の使い方を、いろんな『おつかい』を通じて勉強するのが目的だとか。 あたし達のクラスは、来月学校でクリチップをつけることになっている。 まだ実際にクリトリス・チップが配られていないから、あたし達は買い物が出来ない。 けれど、映像を見ていたら……買い物なんて出来なくていい、クリチップなんて欲しくない。 あんな風にお金を使わなきゃいけないなら、大人になんてなりたくない。
『２ｃｈ』を見ていたら、女の人がおまんこを見せるのが当たり前に思えてきて、率直にいって怖くなる。 ついこの間までは、何があっても絶対におまんこだけは隠してたのに、いまでは街中おまんこだらけだ。 これからあたしも、何かお金を使うたびにおまんこしなくちゃいけないっていうことは、番組を見ていて良く分かる。
お昼の政見放送は『セクハラ防止法』について説明していた。 今度の法律で対象になるのは、異性に対して性的な不快感を与える行為全般だ。 今までは男が女にイヤらしいことをいったり、触ったりするのが取り締まられた。 これからは、今までのセクハラ行為に加えて、女から男への嫌がらせを重点的に取り締まるらしい。 例えば町中で女がおまんこを男に見られたら『セクハラ防止法・汚物陳列罪』で『女』が逮捕される。 女が『男のくせに泣くな』という感情が籠った眼で泣いている男を見た場合、言葉にしていなくても『女』が『セクハラ防止法・差別敷衍罪』で逮捕される。 重たい物を優先的に男に運ばせたなら、『女』が『セクハラ防止法・負荷平等違反』で逮捕される……聞いていたら、逮捕されるのは女ばっかりだ。 つまり、これから先に男の気に障ったら、女はすぐに逮捕されるようになる……そういうことだろうか？ 冗談にしちゃ全くもって笑えない。 笑えなさすぎる。
そのうち息を吸うだけで『セクハラ防止法・酸素消費罪』『セクハラ防止法・空気汚染罪』みたいに女が逮捕される日が来る気がする。 いや、冗談じゃなく、本気でそんな風に思えてくる。