ペパーミントリキュール-2
確かにユリにしても、僕と彼女は初対面なのだから、吉田潤と云う人間が居るから、下の名前で良いかとは云うべきだった筈だ。
事実僕は全く同じ理由で、部活の人間からは「良君」と呼ばれているのだから。
でも、僕もあんなに腹を立てる事なんてなかった。
僕は。
ユリを決めつけていた。自分は自分を他人に決めつけられる事を恐れているのに。
それに、僕は。
可愛いユリに。
嫉妬をしていた。
嫉妬をしている。
恵まれていると決めつけて、僕はユリに嫉妬をしている。
酷く落ち込んだ。
僕は僕が厭う人間とちっとも変わらないと知ってしまったから。
それでも何とか絵を描いていると、いきなりドアが開いて―――。
「こんにちは。谷町ユリ、居ますか?」
よく通る声をした男子生徒が、ひとり。
ドアのところに立っている。
「あ、ケン。来なくて良いって云ったのにー」
その男子を見て、ユリが溜め息をつく。
「ごめんごめん。でも、家からメールが―――」
云いかけて、彼はハタと気付いて美術室を見回した。
僕達の活動はいつも、一階の美術室だ。
「あ、どうも。谷町ユリの兄の、谷町健吾です。二年A組です」
ぺこりと頭を下げたその男こそ。
僕が恋をする事になる、谷町健吾だったのだ―――。
(終)