第21話 研修、ウミホタル鑑賞-1
〜 海合宿 ・ ウミホタル鑑賞 〜
一度は絶滅寸前に追い込まれたウミホタルも、社会の変化に伴って少しずつ回復した。 いまでは最盛期とまではいかないものの、かつてを十分に彷彿させる規模に戻っている。 魚のアラや魚肉ソーセージを詰めた瓶をウミホタルポイントに下ろせば、数十分もあればウミホタルが集まってくる。
施設前広場でウミホタル捕獲用に細工をしたビンと、懐中電灯を受け取ってから、調理専門学校生は浜辺へ歩いた。 研修の中日(なかび)でもあり、午後にカッター訓練で消耗したこともあり、夜間研修メニューは『ウミホタル鑑賞』のみという、易しい内容になっている。
『備品』となった少女たちは、理想的な捕獲装置でもあった。 すなわち、ビンの代わりに女の持ち物を活用し、襞の隙間に餌をつめる。 体温で餌を温めながら匂いを拡散し、ウミホタルを誘因する入れ物になる。 餌は腐敗が進んだ方が匂いが強い。 夏の日中を放置された魚のアラを膣に詰められた少女たちは、一歩踏み出すたび、饐えた膣独自の匂いと相乗した凄まじい薫りを漂わせる。 少女自身が自分が放つ異臭の酷さと恥ずかしさで、顔を紅潮させていた。 出来るなら鼻を摘まみたいけれど、両手は背中で拘束済み。 しかも鼻の穴はそれぞれフックで4方向に拡げられていて、箝口具つきの口で息をするわけにもいかず、匂いを防ぐすべは全くない。 自分の膣が醸す芳香を自覚しながら、他の生徒達が自分を避ける気配を認識しながら、黙って歩かされることが『備品』に対する扱いといえよう。
海辺についた専門生たちは、思い思いにビンを波打ち際から放り投げた。 ビンには縄がついていて、沖合に流されたとしても縄を手繰れば手許に戻ってくる。
一方、ビンの代わりに身体を提供する少女達はというと、小型ボートに乗せられて沖合に連れていかれた。 沖合といっても岸から20メートル、水深3メートルもないのだが、五感を奪われている少女たちには『遠くへ連れて行かれた』ことしか分からない。 何も教えてもらえないまま、後ろ手に回した手首に錘(おもり)がまきつけ少女達の箝口具に長いゴムホースが接続される。 隙間が無いようにビッチリと、そしてもがいても取れないようにしっかりと接続すると、指導員はやおら少女を船べりに立たせ、勢いよく突き飛ばした。
事前に『海底に屯(たむろ)する生き物をトラップする』とだけ、指導員は伝えている。 『まず、股間が海の底につくまで深く潜る。 手首に錘がついているから、浮かぼうとしなければ浮かぶことはない。 思いきり息を吸えば身体が浮いてしまうから、最小限だけ息を吸って、肺を膨らませないよう気をつける。 口に結んだホースで息を吸い、鼻から息を吐いて呼吸する。 口で息をすって口で吐いてはいけない。 ゴムホース内の二酸化炭素濃度が上がって、酸素不足で失神、場合によっては窒息する。 以上のポイントを留意して、決して取り乱さず、静かに『ビン』として振舞いなさい』とは――教えない。 つまり『それくらいは自分で考え、言われなくても気づく』ことが、正しい『備品』の在り方だ。
言われたことを全て出来るのは2流に過ぎない。 社会に出てA、Bランクになるためには、言われないことまでこなす能力が求められる。 指導員は、備品として配属された3名の少女の素質について、午後一杯の活動から『2流以上』と判断していた。 ゆえに少女達が『1流』かどうかを判断するためもあって、より高いハードルをセッティングした。 そうそう1流の生徒がいて堪るか、所詮は受け身な備品に過ぎない――そんな木で鼻を括った心情も、ゼロではない。
【29番】は海に突き飛ばされた瞬間平常心を無くし、足をバタつかせて浮上した。 せっかく膣で温められ、いい感じに香っていた内容物は雲散霧消だ。 錘に引きずられつつ、手を背中で縛られながらも浮かぶ泳力は中々だが、『備品』としては失格だ。
次に突き飛ばした【2番】は、海に沈むところまでは頑張った。 けれどゴムホース越しに口呼吸に終始したため、すぐに酸欠の状況を招く。 窒息の恐怖の下にあっては、強制的に沈めない限り、誰でも浮上せざるを得ない。 懸命に足で水を掻き、錘を引っ張って水面に浮上した【22番】。 海の寒さとチアノーゼの兆候で、唇も頬も真っ青だった。 海底で気絶する前に事態を打開した機転には褒めるべき点があるにしても、備品としてはお世辞にも優秀とは言い難い。
続く【22番】も、最初海に落された時は僅かにもがいた。 けれど口に繋がったゴムホースの感触に気づくと、すぐさま動きを止め、静かに海底へ沈むではないか。 水面から顔を出したゴムホースを通じて伝わる呼吸のリズムは安定し、海の底で横たわっている様子が伺える。 100点満点ではないにしても、備品として十分に及第点を与えていい。
……指導員の予想が当たれば、つまり『備品』としての役割を完遂できなければ、指導員の勝ち。 逆に『備品』として一流の振舞が出来れば、指導員の敗北といえるかもしれない。 この仮定を踏まえた上で、結果を勝敗で表すなら、指導員の『2勝1敗』というところだろう。 海底に沈めてから30分後。 ゴムホースを引っ張って船の上に引き上げた【22番】の下半身は――特に淡く広がったオマンコの襞は――まばゆいばかりにウミホタルの青色蛍光色に包まれて、神秘的な美しさを醸した。 浜辺でウミホタルの発光を愉しんでいた専門生たちも、自分達が捕まえたウミホタルを足したより沢山のウミホタルに包まれながらM字開脚する【22番】を見た時には、素直な嘆声を漏らしていた。