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SM学園・行事幕間
【学園物 官能小説】

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第16話 バス移動はトランクで-2

 そもそも、宿舎といっても、割り当てられた部屋がない。 玄関を這って進んだ私達を待っていたのは、バスで長時間押し込められたのより若干サイズが大きいだけの、武骨で無機質な檻(ケージ)が廊下に並んだ光景だった。 つまり、私たちは廊下の檻に押し込められ、宿舎での夜を過ごしなさい――ということになんだろう。 それぞれの檻に番号が振ってあり、檻には『水を張ったトレイ』、『餌皿』が並んでいて、その隣にはガラス製の『ボウル』があった。 わざわざ確認するまでもない。 トレイが水分補給、餌皿が食事用だ。 そして隣のボウルは排泄用のオマル代わりに違いない。 器の大きさといい、僅かに残った茶色い滓といい、洗ってあるんだろうけれど汚物の香りが漂ってきそう。

 そっと持ち物が入ったカバンを檻の入口に置いたところで、引率の8号教官から『おすわり』との指示。 さんざん体育の時間に鍛えられているので、命令と同時に身体が勝手にポーズをとる。 膝がしらを左右に開き、両手を床につけた上で、胸を反らして顔をあげる。 いわゆる『犬のおすわり』を再現したポーズで、この姿勢を保つには思いきりお尻を後ろに突きださなくちゃいけない。 口は馬鹿みたいにおっぴろげて、舌をダランと伸ばしてから口で浅く連続した息継ぎだ。 そのままバランスを保ちつつ顔をあげるのは中々に負担があるけれど、教官が『よし』というまで動いちゃダメな決まりになっていた。 

 『おすわり』をしてからどのくらい経過しただろうか? 10分くらい経っていたと思うけれど、しばらくして廊下の向こうから数名の女性が現れた。 年の頃は30代だろうか、全員がピシッとしたスーツ姿で、私達のように全裸な人は誰もいない。 スカートの丈も長いし、シャツにしたって長袖だ。 8号教官が超ミニスカートで太腿を見せまくりなことを考えてみても、彼女たちのフォーマル過ぎる装いには驚いた。 とはいえ胸に『B』のワッペンが縫い付けてあったから納得だ。 なるほど、この人たちがBランクの社会人なのか――いわれてみれば皆してスタイル抜群だし、顔も凛々しい。 横顔を床から見上げただけでドキッてなった。 私達が卒業後に進路実現するために、日々目指している社会階級『Bランク』を実現した、現代社会のエリートたち――明らかに私達とは違うオーラを纏っている。 

『学園生徒35名ッ、ただいま引率して参りましたッ』

 8号教官が最敬礼。 普段私達に威張り散らしているだけに、その教官をして最敬礼させるってことは、どれだけ偉いんだろう? ただの学園生徒な私には想像できない。 言えることは、私達よりはとんでもなく偉くて、とんでもなくスゴくて……きっと、とんでもなく怖いんだろう。 Bランク以上になると、下位ランクに『自死』を命じることが出来る、と社会の時間に習ったのを思い出す。 ということは、少なくとも命令は絶対服従だし、場合によっては命を賭けなくちゃいけない状況もあり得るってことで――。

『ご苦労様。 それじゃ、早速借りていくわね。 終わったらここに戻せばいいのかしら?』

 ピリッと張りつめた空気にそぐわない、上品な調子で尋ねる女性。

『はッ』

『道具のメンテナンスはどうしましょう? 身体のケアと、シャワーくらいはしなくちゃダメでしょう』

『め、メンテナンスなんて、とんでもありませんッ! 全て学園引率の我々が行いますので、ご自由にお使いください!』

『あら、悪いわねぇ。 それじゃお言葉に甘えるとして、じゃあ、お食事はどうなっているのかしら』

『食事も同様に、お任せください。 規定の栄養量と水分摂取を計算し、こちらで用意しておりますッ』

『そうなの。 助かるわ』

 床に並んで『おすわり』する私達を見下ろしつつ、頭上で交わされる意味深な会話。

『だったら制限なしで使っていい、ということね?』

『あ、いえ、1つだけお手を煩わせますが、原則として、使用は朝6時から夜12時までとなっております。 その時間にはこちらの檻に戻すよう、よろしくお願いいたします』

『そりゃそうね。 いくらなんでも一日中使用できる、というわけにはいかないもの』

『申し訳ありませんが、ご協力をお願いします』

『ということは、夜の2時まで観測用に使用するのは難しい……と』

『ただ、申請して頂ければ制限はありません。 生徒を使用する旨、一言引率の我々に言づけていただければ、時間制限はその限りではありません!』

『なるほど。 一言断れば構わない、と理解して宜しくて?』

『はッ! その通りです!』

 交わされる会話を察するに、私達に関わることを喋っているのだけは分かる。 ただ、何を言っているかはよく分からないけれど、教員が生徒について喋る会話としては、あまり愉快な話じゃないのは確かだ。

 それからしばらくの問答を経て、私たちの首輪から伸びたリードは、Bランクの女性陣に委ねられた。 いよいよ班別研修の始まり……そう思うと床を這う手足が震えてしかたない。 廊下を這いながらチラリ、振り返ると、直角に上半身を曲げたお辞儀の姿勢で私達を見送る8号教官。 気のせいだろうか、もともと小柄な教官が、普段より一回り小さく見えた。


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