第14話 29番の海合宿-2
「終業式のあと、海合宿の『しおりの読み合わせ』と『班分け』があるんやって。 【29】ちゃん、誰かと一緒になる予定あるん?」
大きい瞳で見上げながら尋ねる【9番】さん。
「別にないよ。 2号教官が勝手に決める気がするしね。 まさか好きな人と班を作らせてもらえるなんて思ってないし、いい人とペアになれるようにお祈りでもするしかだけど……なんで?」
「ん……いや、ほら、うちな、あんまり仲いい人おらへんやん? もしよかったら相部屋になって欲しいなっておもたんよ。 班決めって、事前に根回ししとかんと、いっつもはぶられてばっかりやったから、つい気が急いてまうねん。 せやけど……やっぱり教官が決めてるんやろな、全部。 その方が楽っちゃ楽やもんね」
ポリポリと鼻の頭を掻いたと思うと、少し口の中でモグモグ呟いてから、んっと息を呑み、【9番】さんは改めて私を見つめた。
「せやけどさ、もし……もしもやで? もしも自分らで班決めしいってなったら、そん時は【29】ちゃんとこに寄せてもろてもいいやろか?」
真顔で尋ねられてしまった。 【9番】さんには、特に好印象も悪印象もない。 例えば【22番】さんなんかと一緒になれたらいいなとは思うけど、彼女はみんなに人気だから、そうそう割り込めそうにないと思う。 なら、向こうから来てくれたんだから、断る理由は見当たらない。
「こちらこそ♪ そうなったらいいね」
「わ、ほんまに? ほんまに大丈夫??」
「全然だよ。 頼りにならないと思うけど、もしそうなったら、一緒にがんばろ」
「うわー、いってみるもんやなぁ。 半分ダメ元やったんやけど、よかったぁ……ほんまおおきに」
身体を寄せてくる【9番】さんの様子からは、本当にうれしそうな様子が見て取れた。 私なんかでいいんだろうかって、ちょっぴり背中がこそばゆい。 でも悪い気はしないです。 【9番】さんとあれこれおしゃべりしながら登校したら、教室に着くまであっという間だった。
……。
終業式はあっさりしていた。 1学期にあった表彰や、生徒会からの『学園祭売り上げ報告』、教頭の訓話を合わせても40分に満たなかった。 そうして教室に戻り、通知簿を受け取れば、1学期はお終いだ。 終わりのHRはいつも短いんだけど、この日は2号教官からも訓話があった。
掻い摘んで言うと、次のような内容だ。
『1学期に目指したクラスは、どんな命令に対しても、その意図を慮った上で従うクラスです。 無条件に従うだけなら獣です。 といって従えないのは論外です。 不条理、無茶、羞恥といった自分の感覚を二の次にして、命令を吟味したうえで従うことが、社会人への第一歩です』
いつも簡潔なコメントしかしない2号教官にしては、言葉数が多かった。
『ですが、お前達は私の設定を上回るペースで成長しています。 命令がなくても自分で考え、自分だけじゃなく周囲とも協調し、社会人として相応しい振舞を見つけること。 それが2学期の目標です。 この目標の一端を、図らずも学園祭で果たすことが出来ました。 嬉しい誤算、といえるのかもしれません』
無表情なので自信はないけれど、どことなく教官の頬が柔らかく見えた。
『これからはお前達を『新入生』ではなく『学園生』として扱おうと思います。 基本的にはこれまでと変わりませんし、命令には絶対服従ですが、一定の範囲で自主的な判断を任せようということです。 もちろん、牝性を重視し、常に自己を客観的に見ながら、自分に相応しく行動する姿勢を
疎かにしてはなりませんので』
そういうとやおら教壇に両手をつき、キッ、鋭い姿勢で私達を睥睨します。
『とにかく、もう受け身に過ごす時期に区切りをつけましょう。 今までは細部まで指示を出していましたが、これからは自己判断で動きなさい、ということです。 行動に自己責任が伴う分だけ大変でしょうけれど、少しずつ自由を拡大できればいいですね。 そのためには、いつでもしっかり考えて行動する習慣を身につけることです』
小さく一呼吸おいてから、
『よろしいですね』
静かに、それでいて重々しく語りかけてくださいました。
教官がいう『扱いが変わる』の意味はよく分からなかったものの、どうも私達を褒めてくれているようだ。 教官の予想より成長が早いっていうのは、まあ、牝として学園に順応できてるってことなわけで、恥ずかしい半分、嬉しい半分――いえ、恥ずかしい2割、嬉しいが8割くらいある。 具体的にどんな自由があるかはサッパリ分からない。 でも、自由や責任という言葉には、久しぶりに感じる『自尊心』の気配がする。 自由を拡大する……悪くないイメージだ。
対する返事は決まってる。 直立してオマンコを拡げながら傾聴していた私達は、ほんの一瞬お互いの様子を伺ってから、
『『はい! チツマンコ拡げて理解します、ありがとうございます!』』
ピタリ、語調のあった恥ずかしい挨拶を。 寸分のズレなく、顔を上げ、胸をはり、大きな声で返したのだった。