ジェンダーフリーの闘士-2
幸恵が契約書を広げて説明を始める。
元々の借金は50万程度……しかしかれこれ倍近くに膨れ上がっている、屁理屈を捏ねてみても借金は借金、気にかかっていないわけではない。
契約書にははっきり「SMショー」と書かれていて、縄目やムチ・蝋燭による皮膚へのダメージがあり得ること、男性器、もしくは器具の挿入によって若干の性器へのダメージがあり得る事は明記されている、概ね1週間程度で自然治癒する範囲内であれば問責外、それ以上の負傷があった場合は医療費を負担するが、賠償責任等については別途協議とすることも……。
プレイ内容についても、事細かに列記されている。
「これを……全部?」
「いいえ、ショーは90分、その中から何を選択するかは、こちらの意思で決めさせていただきます、その旨はこちらに」
確かに書かれている、中々周到だ……この女性は弁護士?それとも司法書士とか?
実際には、不動産契約で使用する契約書を下敷きに、幸恵が作成したものだが……。
そしてショーに出演した場合、借金は全て棒引きとする、とも明記されている、具体的な金額も添えて……。
門村としてはもうあまり知子に関わっていたくない、裁判を起こしたところで吊り合う金額ではなく、取立てを依頼したサラ金も同意している……ショーの出演料としては法外に高いのだが……。
ショーの事は口外してはならない、口外した場合はこの契約書を公開することもあるとも書かれている、ショーを行う場所を秘密にするために目隠しをして連れて行かれることも。
正直恐ろしい……男性経験は……苦い思い出だが、ある……しかし数えるほど、もちろんSMなど経験がない、しかし借金が消えるのは魅力だ、つい先日も職場で口論となり、椅子を蹴って辞めて来たばかり、今は無職なのだ、いくら理屈を捏ねて先延ばしにしても利息がかさんで行く一方……借金を返さなければいけないことは自覚しているのだ。
「SMショー一回にこれだけの金額を払うと言うの?」
率直な疑問だ、女優やアイドルならいざ知らず、自分にそれだけの金を払って見に来る客がいるとも思えない。
「それだけ過酷なショーです、肉体的ダメージの事はそこに書かれている通りですが、精神的なダメージを負うかも知れません、それについては個人差が大きいので契約の内容には書いてありません」
「つまりは……精神的におかしくなる人もいるってこと?」
「今のところそこまでは……寸前までは行った事はあります、怖いですか? 怖ければこの話は……」
借金返済のチャンスなのだ、それに闘士たるもの、怖気づいたなどとは思われたくはない、自分はそれ程弱くないはず、SMショーなどという女性を貶めるものに屈してはならない……。
「いいえ、少しも怖くなんかありません」
「では契約を?」
「いいわ……署名捺印すればいいのね?」
「はい……ではこの日時にお迎えの車を差し向けますので……もしいらっしゃらなかった場合は違約金として……」
「大丈夫よ、必ず待ってるから」
「結構です」
こうして、ジェンダーフリーの闘士を生贄とする前代未聞のショーが、実現に向けて動き出した。