信仰の果てに-1
門村が大沢の事務所を訪れた。
「幸恵君、お茶を頼むよ」
「はい、ただいま」
門村が応接のソファに腰を降ろすと、幸恵がお茶を運んで来た。
「どうぞ……」
「幸恵も座りなさい、一緒に聞こう」
門村が狐につままれたような顔を見せる。
「いいんじゃよ、この娘には今後色々と協力してもらうことになっておるんだ」
「ああ、そうですか……」
まだ合点がいかない表情だが、大沢のリラックスした態度を見て納得する。
「ゲストとの連絡とか里子との金の受け渡しとか衣装なんかの調達とかな、これでも雑用がいろいろあってな、わしはもうそういうことは面倒で敵わん、この娘にそういう雑務をしてもらえば、わしは門村さんと里子との打ち合わせだけで済むからな……仔細なことは聞きっこなしで頼むよ」
「わかりました、幸恵さんだったね、今後よろしく」
「こちらこそ」
「門村さんよ、わざわざ来てもらったのは他でもない、そろそろ次のショーをやりたいんだが」
「生贄ですね? う〜ん、いないことはないんですけど」
「何か問題があるのかね?」
「問題というわけじゃないんですがね、少々年増で……」
「幾つだ?」
「確か45だったと思います」
「わしから見れば充分若いよ、ゲストだって50代、60代も多いしな」
「それと、Mじゃないんで」
「ふむ……」
「まるっきり普通の主婦ですよ」
「それがどうして組と関わる様になったんだね?」
「怪しげな新興宗教に入れあげましてね、それでだいぶ借金をね」
「旦那は助けないのか?」
「いや、旦那も出来る限りのことはしたんですわ、でも前の借金を返せないうちにまた借金を重ねる、って具合でね、家まで手放すことになってとうとう見限られたんですわ」
「それはもっともだな、まだその宗教に?」
「それが酷い話で、お布施を絞り取れなくなったらポイですわ、ヤクザより性質が悪い」
「そうだな、でもまだ信じてるのか?」
「いや、流石に目が覚めたようですね」
「で、借金だけが残ったわけか」
「そうなんで……でも45でしょう?」
「そうか? 里子だって40だぞ」
「ママくらい色っぽけりゃ使い道は色々なんですけどね、どうにも冴えなくてね、それに頭も固いし、羞恥心も人一倍と来たら風俗関係じゃどうにもなりませんわ」
「で、結局どうするつもりなんだ?」
「考えあぐねてるんですわ……まあ、こつこつとでも返せるだけ返してもらう他ないでしょうね」
「里子にかかると隠れてたM性が開花するかも知れんぞ」
「ええ、そこに一縷の望みをかけてお話したんで……」
大沢の隣で幸恵も頷いた……それを見た門村は大筋を理解した。
里子の責めを経験してMに目覚めた……大沢の信頼も厚いようだ、そういう娘ならショーの手伝いをしてもらうのに適任だ。
「Mにならないまでもセックスに対して柔軟になるかも知れん、そうなったら恵和会としちゃ美味い話なんじゃないか?」
「……ですね、理想的だ……」
「とは言ってもな、肝心の里子が食指を動かすかどうか分らん、相談してみるよ」
「お願いしますわ」
「ということなんだがね、どんなもんだろう?」
里子と大沢はクラブの事務室で向かい合っている。
「写真とかないですか?」
「ああ、預かってるよ……これだ」
「確かに普通の主婦って感じですね……スリムなのが救いか……」
「食指は動かんかね?」
「Mっ気はあるんですか?」
「いや、まるでないらしい」
「そんな風ですね……しかも羞恥心は強そう……」
「ああ、門村さんはそう言ってたな」
「それなら羞恥責めにしましょう、目一杯恥ずかしい姿を晒して泣き喚かせて、その上で廻しちゃう」
「抵抗したいのに出来ないのを無理やり、か」
「興奮しません?」
「するな、レイプみたいで……その上どこにでもいそうなルックスだからな」
「そう、お隣の奥さんをレイプしてるみたいで……そうそう、今回は中山君を連れて行こう……」
「ほう?」
「彼、熟専なんですよ、持続力もあるからぴったりだわ」
「Mになっちまえば完璧だが、少なくともセックスに対して柔軟に出来るかね?」
「門村さんのリクエストですね?」
「言い出したのはわしなんだが……」
「そればっかりは保障できません、気がおかしくなりそうなくらいに感じさせることは出来ますけど、それに嵌るかもう懲り懲りってなるかは何とも」
「安請け合いだったかな」
「でも今のままではどうにもならないんでしょう? これより悪くはならないんじゃありません?」
「確かにそうだな」
「借金がいくらなのか知りませんけど、45の主婦がパートで稼げるお金なんて知れてますからね、旦那さんに愛想を尽かされたんなら生活だってあるでしょう? レジ打ちとかウエイトレスじゃ生活だけでかつかつですよ、風俗で働く他ないんじゃありません? だとしたらこの年齢、このルックスなら特別なことが出来ないとね」
「それを教えてやろうというわけだな?」
「人助けですよ」
「まあ、そういうことにしておこう、旦那の制止を聞かなかった報いだな」