底のない沼-4
途端、今朝自分で思う存分に刺激した秘所がジュン、と潤む。
エッチという単語だけで、頭が勝手に野々村と奈緒が激しく身体を絡め合う姿を想像してしまった友美。
実際は、かなり純情カップルでそんなことしてるはずがないのに。
(あたし、結構ヤバイかも……)
意識すればするほど友美の身体はジリジリと疼き始めてきた。
頬が熱く火照る。脚の間がムズムズしてくる。
こうなると、もう身体の火照りを鎮めるには、アレしかない。
奈緒の話もソコソコに、友美は勢いよく席を立つと、
「ゴメン、トイレ行ってくるね」
と、ポカンと口を開けたままの彼女を置いて、教室を飛び出した。
◇
きっかけは、小学生の低学年の頃か。
読書が趣味だった友美は、親から買い与えてもらった『物語全集』なんて、とっくに飽きるほど読み返していて、新しい本を欲していた。
やや児童向けの小説なら、とっくにスラスラ読めた友美は、なんとなく背のびをしたくて、大人が読んでいる小説がどんなものか興味を持っていた。
友美は母親が推理小説が好きで、よく寝る間も惜しんで読んでいることも知っていた。
『次から次へ事件が起きるから、どこで中断していいのかわからない』と母はよく言っていた。
だから、大人を夢中にさせる推理小説を読んでみたかった友美が、こっそり両親の部屋に入ったのは自然なことであったのかもしれない。
そして、読書よりも友美を夢中にさせてしまう“アレ”を知ってしまうのも、また。
二人とも仕事から帰ってこない、この部屋はひんやりと肌寒かった。
本を借りたいとはいえ、全く人の気配のしない部屋に忍び込むのは、なんだか悪い気がして、足音を立てないように歩く。
そして友美は、ドレッサーの横に置いてある、父親より背の高い本棚に近づいた。
眺めれば、本屋さんでよく平積みされている作家さんの小説がズラリ。
割とコレクター気質な母は、綺麗にそれを並べていた。
だけど、まだ幼い友美にはその並んでいるタイトルを見てもピンとこなかった。
心惹かれるようなタイトルがないのだ。
地名と殺人事件を組み合わせたタイトルばかりのそれらは、表紙を見てもなんだか可愛くもないおじさん向けっぽいものばかり。
児童文学は挿絵も多いし、イメージしやすいし、何より読んでいてワクワクするけれど、こんな本を読んだってワクワクしそうにない。
「推理小説ってなんだかつまんなそう」
そう思った友美は、そのまま別の棚へと移動した。