オーディン第三話「姫様」-3
「壁穴がしまったらどうやって“姫様”に会う気だ」
「そうだった」
プシュッ、壁の穴が二人の目の前で閉まってしまった。
「お、おい、どうするロキ」
「…まぁ調べてみるか」
肩を落とすファウスト、ロキは静かに壁に歩み寄る。
プシュッ、壁に穴があいた。「開いたぞファウスト」
「…ただの自動ドア、だったのか」
「さてと、さっさと姫様をさらって帰ろう」
「そうだな」
二人は廊下を歩き続けた。そしてたくさんのガラス管が並ぶ部屋に辿り着いた。ガラス管の中には、いわゆるモンスターが入っていて、緑の液体の中でそれは浮いていた。
そして一番奥に一つだけ、黄色く光るガラス管があった。
「ファウスト、あのガラス管…」
「間違いない“姫様”だ」
黄色いガラス管の中に浮いている少女、彼女を見て二人はおもわず声をあげる。
「どうする、ファウスト」
「俺に任せろ」
ファウストは静かに目をつむった。空気が張り詰め、肌を刺すような感覚がロキを襲った。
キュイン、ファウストの目が見開いた。赤く輝くその瞳が動くと同時に、ガラス管に赤い線が走る。そして
ザバッ、分厚いガラスが四角くきれいに切り取られた。切り取られたガラスは、中の液体と共に床に落ちたが、その分厚さからか割れなかった。
「なんだこりゃ…」
「ロキ、早く“姫様”を、奴は俺が引きつけておく」
「奴って何だ」
ロキが振り返ると、そこには両腕が異常な大きさのモンスターがいた。
「早く行け」
「…あいつは任せた」
液体の入っていないガラス管から少女を抱き上げると、ロキは走り去っていった。
ドゴォォン、青空で爆発音が鳴り響いた、それと同時に突然巨大な城が現われる。
空に浮かぶ城の周りを、一匹の犬が飛んでいた。背中には黒いコートを着た怪しい男二人と、白い服を着た少女が乗っていた。
「おせえぞファウスト、俺達まで爆発に巻き込まれる所だったぞ」
「巻き込まれてないんだ、がたがた言うな」
「もうすぐつく、二人とも少し黙ってろ、“姫様”の方がお前らより利口だぞ」
「……」
「……」
「私が乗せられるのはここまでだ、ルシファーとは“犬猿”の中なのでね」
“犬”は翼を広げると、そう言い残して飛び去っていった。
「それにしても、空を飛んだり物体を透明にできたり、変な犬だったなあ、なあファウスト」
「……」
「ん、おい、コラッおいて行くなあああ」
ガスッ、ファウストが地面に刺さった斧をぬいて、コンクリートの壁に投げ付けた。
「…毎回毎回嫌がらせか、ルシファーさんよ」
「そんな事ありませんよ、いやあ“いつか”改善できるように努力します」
ファウストは剣を地面に突き刺した。ルシファーと呼ばれる、背広を着たブロンドの人物は、表情を変えずニコニコ笑っていた。
「ありがとう、ファウスト、ロキ、約束の物はバイクに乗せておきました、それでは」
笑顔を絶やさないルシファー、彼が両手を叩くとその姿は地面に消えた。
「バイクだってよ…ファウスト」
「…仕事が早いな」
二人がバイクに近くと、そこには“報酬”があった。ロキには銃のカスタムパーツが二つ。ファウストには金の腕輪だった。
「…なんだこれ」
「お似合いですよ、ファウスト“ちゃん”」
「…うるさい」