30.オナニー練習のはじまり-3
ビー。
少女の首輪が点灯し、淡白な機械音が部屋に響いた。 絶頂を告げるブザーである。 オマンコに指を触れてから15秒――オナニーを開始する前から感情を昂ぶらせ、自慰に備えていたとしても、信じられない速度である。
「……オマンコおっぴろげた大変みっともない姿で恥をさらし、申し訳ありませんでした。 失礼いたします」
あっけにとられる少女たちを他所に、希美は慎ましやかにお辞儀する。 その挙措は折り目正しく、到底ついさっきオナニーを終えたとは思えない。 けれど頬や体の紅潮は隠しがたく、股布を付け直した股間からは白い体液が流れているし、頬はあどけなく紅潮していて、さきほどの絶頂が決して偽りでないことを如実に示していた。
希美と入れ替わりに、再度檀上に登る黒縁女性。
「では、40分の休憩を挟みます。 食事、御手洗いはこの時間に済ませてください。 40分後には全員着席しておくようにお願いします。 以上」
起立も号令も、なにもなし。 黒縁女性はさっさと教室をでていった。 代わりに希美が廊下から食事がはいったトレイをもってきて、みなの机に配膳する。 ステンレス製の食器に白いスープ……栄養摂取に特化したオートミールだ。 それまで静かだった少女たちが、ざわっ、微かにざわめいた。 常に喉奥に押し込まれたポンプや浣腸で栄養を取らされていた少女たちにとって、どんな形であれ、口から食べられるというのは衝撃的な展開である。 中には一生食事なんて、と諦めたものもいるくらいだ。 配膳を終え、希美は『どうぞ』と促した。 けれど誰一人動こうとしない。 本当に食べていいのか、そもそもどうやって食べればいいのかが分からないまでに、Dランク生活は少女たちから日常意識を蝕んでいた。
「食事作法は……言葉よりも、見て頂いた方が早いですね。 みなさん、私のやることをよく見て、参考にしていただければ幸いです」
誰一人食事をはじめない様子に束の間戸惑ったようだが、希美はすぐに自分の食器にオートミールを注ぐと、その場で食べ始めた。 手は頭の後ろに組み、食器のギリギリ近くまで顔をよせる。 ソッと舌を伸ばしては、白い液体を掬い、舐める。 唇をつけて液体を啜るような横着はしない。 なるべく音をたてないよう、上品に一口分だけ啜っては、零さないよう嚥下する。 舌で掬いながら顔をあげ、目で他の少女たちに『どうぞ』と促せば、少女たちにも通じたのだろう、あちこちで犬食いが始まった。 床ではなく机の上に置かれた皿に突っ伏して舐めているため、厳密には犬食いではないが……ピチャピチャ、ペチャペチャ、小さな音とともに減ってゆくオートミール。
少女たちに『犬食いをさせられている』という屈辱感はないのだろう。 講義中とうってかわって、誰もが目に光りを宿らせながら、舌をスープにつけている。 感情に乏しい少女たちではあるものの、集中してお皿と向き合う様子は『嬉々として』といってよさそうな程だ。 自分のペースで、自分の舌で食べてもいい……少女たちにとっては、味や形式よりも、自分で食べられることが大きな意味を持つ。 そう考えると、食事こそが、少女たちにとって自分達が『DランクからCランクに移る過渡期にある』ことを、頭ではなく身体で実感する機会なのかもしれなかった。
そんな少女たちを横目に、手際よくオートミールを平らげる希美。 少女たちの相手をするにはどうすればいいか、既に彼女は気づいていた。 少女たちは、自分から何も言わない極めて受け身な集団だ。 集団の性格を短期間で変えるわけにはいかない以上、自分が先手先手を打つことで、問題を未然に防げばいい。 さしあたって食器の洗滌――舌で食事を舐めとったあと、おまん汁で食器を濯ぎ、再度舌で磨きあげる――や御手洗いの使用――トイレの便座は使わず、跨いだ姿勢で排尿、排泄、後始末は同期に頼んで舐め掃除をしてもらう――について、教えた方がいいだろう。 それも、言葉で教えるのではなく、自分がやって見せる方がよさそうだ。