MOTHER『声』-1
暗く寒いこの世界に 懐かしい音が聞こえた。
僕はすぐに貴女だと理解する。
貴女は僕に会いたがっている。
最初 僕はそれが嬉しかった。
でも気付いた。
貴女が会いたがっているのは 僕のいる世界でだってこと。
どうしたら僕の気持ちが届くのだろう?
肉体のない僕は貴女をどう救えるのだろう?
何も出来ない自分が歯痒い。
何故わかってもらえないのだろう。
責めることは何もないのに。
僕はずっと聞いていた。
僕はずっと感じていた。
貴女の決断は間違ってはいない。
僕の事を最後まで守ろうとしてくれた。
まだ見えない僕にずっと話しかけてくれていた。
安易に出した答えではないことも 僕なりに解っているのに。
ねぇ 聞こえる?
僕は悲しい。
僕はこの世界でずっと貴女の準備が整う日を待っている。
寒いけど 恐いけど
貴女にまた会える日が来ると思えば 僕はいつまでだって待っていられる。
だから ねぇ 悲しまないで。
貴女に会う場所はここじゃない。
温かい部屋で。貴女の温もりを感じて。貴女の笑顔に迎えられる。
それが貴女と僕の出会いになるんだ。
それまで僕は何度でも貴女を選ぶでしょう。
僕はそれほどまでに貴女の子として産まれたい。
貴女が僕を守ろうとしたように。
今度は僕が守ってあげるから。
ねぇ 早まらないで。
きっとまた会えるから。
今度こそ呼ばせて。
『おかあさん』