第四章 漂着した恋人-9
自分は土橋に肉欲を貪られるだけではなく、金が欲しいと言われれば渡しているし、掃除も洗濯もしてやっている。
どうしてこの二人と同列に扱われているのか、我慢がならなかった。自分より十歳も歳上の胸が大きい女と、まだ二十歳になっていない外人顔の小娘。巨乳、若さ。自分にはそんな特徴は無い。だが、そんな安っぽい魅力がなくとも、総合力で自分が劣っているとは思えなかった。
(なに、アレ。所帯くさっ)
ソファに座って待っていた涼子のスタイルを見るや、汐里は鼻で嗤った。そしてその側で無意識にモデル立ちをしている真璃沙に至っては、指差して爆笑してやりたくなる。いや、そうしてやろう……。
汐里が部屋に入ってバッグを置いた時、背後のドアが開いて土橋が入ってきた。
「遅いぞ、汐里」
約束の時間よりも早く着いたのに、いきなり叱られる。
「ご、……ごめんなさい」
汐里は最も健気に見える身のくねらせ方を意識して、両手を合わせると頭を下げた。顔を上げる途中で、灼けつくような視線で二人を睨む。
「今日はたっぷりヤるぞ。全員こっちに来い」
ずかずかと入ってきた土橋は、汐里の前を素通りして隣の部屋のドアを開けた。「ファミリー」と銘打っただけあって夫婦と子供たち、皆同じ場所で寝られるようにするためか、寝室の中央にはキングサイズベッドが鎮座していた。
「ずいぶん出してないからな、一発目はなかなか濃いぞぉ? 最初は誰にする?」
ドアが閉まると土橋が気色悪い声音に変わり、汐里はタイトスカートの奥が疼いて忽ち蒸してきた。
今日までしばらく声がかかっていなかった。他の奴隷のところに行っているのかと忸怩たる思いでいた汐里だったが、土橋が誰とも交わっていなかったと知ると、さぞそのでっぷりとした体の中には、濃密な邪欲が充填しているのだろうと生唾が出そうだった。
すぐ側に立つ二人からも、胸が熱くした溜息が小さく聞こえた気がした。
「ん? 誰にするんだ?」
土橋はワイシャツをまん丸く膨らましている腹の下で、スーツまで滲み出した我慢汁のシミを見せつけ、「涼子のパイズリにするか? それとも真璃沙のキツマンでぶっ放なそうかな」
(……!)
自分の名が呼ばれない。
何をされたわけでも、言われたわけでもないのに、汐里はキッと彼女たちを向くと思い切り突き飛ばした。壁際のカウチソファまで押し下げられた二人が、突然の乱暴に驚いて汐里を見上げる。
「なに、ババア? バカモデルも。文句あんの?」
性奴隷といっても同列ではないのだ。
自分は土橋が最初に手に入れたいと思った女だし、残り二人が淫奴へ堕ちていった瞬間にも立ち会っていた。誰が一番格上なのか明らかだし、この二人が分かっていないのであれば教えやらなければならない。
「ん? 汐里か?」
土橋が背後から近づいてきた。汐里はクルリと振り返り、ライブチャットの時のような演技ではなく、心底からの甘えた仕草で、
「う、うん。そう、私。いいでしょ。ね……?」
土橋に自ら歩み寄って首に手を回した。すぐ前に醜い顔がある……。
汐里はその醜さにこそ胸をトロけさせて唇にしゃぶりついた。腰に手が回ってくる。自分のキスで抱きしめずにはいられないんだという喜び胸を震わせ、鼻腔いっぱいに口臭を吸い込んで舌を絡ませ、タイトスカートの下腹を土橋の股間に押し付けた。衣服越しでも男茎の硬さが伝わってきて、屹立する幹に沿うように体を上下させる。すると顔面に感じる土橋の鼻息が荒くなっていった。
「んっ……、汐里ちょっと待て」
土橋が急に離れてポケットを探りつつソファに近づいていく。
その先に二人がいるのを見て、
「なに勝手に横取りしようとしてんの!」
と、涼子と真璃沙に噛み付いた。理不尽な怒りを向けられてどう対処してよいか分からずに射る涼子と真璃沙へ、土橋がポケットから取り出たマスクを手渡す。
ポカンとして見上げる二人へ、
「これを付けて、絶対黙ってろ。動いてもダメだ。わかったか?」
そう指示し、二人がマスクをつけ始めたのを見て振り返った土橋は、「……雑音が聞こえたら汐里も気になってイヤラしくなれないだろ?」
その言葉に激情は晴れて、思わず涙を流しそうになった。駆け寄って土橋に再び抱きつく。
この二人はそこで座って見ていればいい。胸が大きかろうが、歳が若かろうが関係ない。自分が土橋を虜にして、丸一日独占してみせる。
汐里はまた唇に吸い付いて、進んで土橋のベルトを緩めていった。
「汐里――」
呼ばれて見上げると真っ暗になった。
アイマスクを被せられて視界が全て塞がれる。あっ、と反射的にアイマスクを取ろうとすると、
「取るんじゃない。目隠ししたほうが、きっとエッチになれる。そうだろぉ?」
今度は土橋の方から思い切り抱きしめられた。
「ああっ、う、……うん、わかった。み、見えないと、エッチになれそお……。な、なっていいよね?」
汐里の手で開かれたズボンの前から尖り出た先端が下腹に擦り付けられてくる。ブリーフを超えて漏れ出た我慢汁がタイトスカートに付着して汚れているだろう。
汐里は構わず自分からも擦り付けてやった。