暑い夜-7
「おっと……お土産と言えば、そうだった」
一方的な男の喋りが終わり、静寂な空間が訪れた。その中で、男が呟くように言った。
尚代の目が不安げに男の動きを追っている。
男は隣のベッドに向かって歩いていった。おもむろに歩く男のチンポは、半テンポ遅れて大きく上下に揺れる。
隣のベッドとの間に落ちているベージュのパンティを取りに行ったのだ。そして、裏返しに丸まっているパンティを手にして、両手で拡げている。
「やめ……てぇ……」
何をしようとしているかわかった尚代は叫んだ。
パンティの底の部分は内側に膨らみ、舟形のシミが付いている。
「思った通りだ……見てみなよ、ここんとこ」
再び尚代のところに戻り、クロッチの部分を伸ばして尚代の顔に近づける。
「凄いおりものが、くっ付いている」
半透明のゼリー状の塊が舟形の端についている。
男は底の部分を自分の鼻に近づけいく。
「やめてぇ……」
ゼリー状の部分を訝しげに匂いを嗅いだ。おりものは無臭に近かった。男は少し前に布を動かし、再び大きく息を吸った。
「シッコの匂いだ」
フッと女の尿臭が鼻を衝いた。女性のトイレに漂う甘い香りと違って、刺すようなきつい匂いだった。
二度三度と、香りを記憶するように吸い込んでから、封のできるポリ袋にフワッと入れてジッパーで封をした。
「今夜の記念にいただくよ」
「やめてよ……」
「奥さんのパンティ。……これで三つ目だなぁ」
「ええっ?」
「うそじゃないぜ」
男はバッグからポリ袋を取り出した。ポリ袋にはココアブラウンのパンティと濃紺の生理用のパンティが入っていた。
「見覚えあるだろう。……この二つは、奥さんの出したゴミ袋からいただいたものさ」
「まぁ、……それは……」
(この頃、ゴミ袋を漁る人がいるって言ってた奥さんがいたけど、この人のことだったんだわ)
先日、近所の奥さんたちが、ゴミ集積所に集まってきて、だべっていたことを思い出した。
話題は、ゴミ袋が破られて中のものを取り出して持ち去る人がいるということだった。最初はカラスか猫の仕業だと思っていたらしいが、どうも男の人らしいと言う話だった。金目の物を探しているんじゃないかとか、女性の下着じゃないかとか、ストーカーが目当ての人のものをさがしているんだとか、さまざまに憶測されていた。こんど立ち番を決めて見張ろうかとも相談していたのだった。
「苦労したぜ。奥さんが家から出てくるのを待って、素早くいただくのはけっこう難しいんだぜ。他にもゴミ袋を狙っている輩がいるんだから。……もっとも目的は、人それぞれ違うけれど……」
「いやらしい人……ほんとに、最低の人ね」
「奥さんは、丁寧に紙袋に包んで捨てているから。……ほら、こっちの方は洗わずに捨てたもんだから、奥さんのスケベな汁がついたままなんだぜ」
男はわざと品無く、汁という言葉を使って尚代を苦しめる。
「えっ……汁?」
「ほらっ……ここ見てみろ」
そういって、ココアブラウンの方を裏返して見せた。焦げ茶色の底に、女性器を写しとった白い舟形が見えた。よく見ると淫汁がカピカピに固まって硬くなっていた。
「嬉しかったなぁ……ほとんど素のままちょうだいできたんだからな」
尚代は見下すような目つきで黙ったままだった。