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尚代
【SM 官能小説】

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暑い夜-1


 新しい家並みが続く、閑静な住宅街を歩いて尚代は自宅に向かっていた。
 暑苦しく、うるさいくらいセミが鳴いている。どの家もグリーンカーテンがブームなのか真新しい家にうっとしいくらいのゴーヤや朝顔が窓を覆っていて、レースのカーテンと重なっていて、開けた窓から家の中が簡単には覗かれないようになっていた。
(もう少し駅に近いと良かったのになぁ。……でも今の収入じゃ無理ってもんか……がまんね)
 狭い敷地に目一杯の建坪で建てた家並みが並ぶ。庭が少なくコンクリートからの熱射が眩しいくらい強い。汗を拭きながらゆっくりした上り坂を歩いて行く。鋭い日差しを避ける日傘も地面からの照り返しは避けられなく、息をするのも苦しかった。
 住宅の並びの、一番奥の家が尚代の家だった。
尚代の家の隣は小さな公園で、ほとんど遊ばれることのない滑り台と鉄棒、そして小さな砂場があった。夕方になると、たまにお母さん方が小さい子供を連れて散歩がてら、立ち寄るが、この時間帯はだれもいなかった。

 山根尚代、三十三歳。二十九で初婚。夫は浩二、三十七歳。商社マン。子供はいない。妊娠の経験も無かった。
 尚代は今、広告会社のイラストを手伝う仕事をしているが、会社に行くのは月に二三度。あとはメールでやりとりしている。ほぼ専業主婦に近かった。
 身長は百六十センチ、体重五十二キロ、少し丸みが感じられるが、伸びた手足は,スマートだった。ショートヘアで、ちょっと見はいい女であるが、まあ、少し可愛いというレベルのありふれた主婦だった。ただ、胸は立派で、夫の浩二も気に入っていて、尚代の自慢でもあった。男性経験は少なく、今の旦那で三人目だった。
 夫の浩二が単身赴任で九州に留守になってもう半年経つ。新しい家ができたと同時に赴任が決まった。嫌がらせのような転勤である。

 新築に引っ越してきて、まだ荷物が半分も片付かないうちに旦那の浩二は九州に飛んでいった。月に一度帰ってくれば良い方で、夜になると狭い家なのに、広く感じるくらい寂しい静けさが尚代を襲ってきた。
 結婚して四年が経つが、子供はいなかった。近所にも子供が少なく、夜になるとシンとしたとばりに包まれていた。
「物騒だから、二階に寝るんだよ。それに雨戸を閉めて玄関の鍵は二重にして、ドアのチェーンは必ずかけて、それから,お風呂に入るときは……」
 毎度のごとく、浩二が電話でしつこく注意してくる。
「わかったわ。そんなに心配なら帰ってきたら?」
 いつも最後はそんな言葉で終わった。
 電話が済むと、一段と寂しさが増してきた。
 
 ベッドにもぐった尚代は,なかなか寝付けなかった。
 なんとなくモヤモヤとして、下腹部が火照った感じが抜けなかった。普段ならパズル雑誌の問題を解いているとすぐ眠くなって、気がつくと明かりが点いたまま眠っていたことが多かったのに、今日は特別に神経が高ぶっていた。
(ああっ、なんだか寝付けないわ……お酒でもいただこうかしら)
 階下に降りて、浩二が好きなヘネシーのVSをグラスについで、香りを嗅いで、一息に飲んだ。身体がカーッと熱くなった。続けてグラスについで、寝室に持って行こうとしたときだった。
 ギシッとドアが擦れるような音が聞こえた。
 新築なので、そのような音が今まで聞こえることはなかった。
「だれっ?……だれかいるの?」
 気のせいかとも思ったが、急に不安になり、警戒した。
 が、音はそれっきりだった。
「だれなの?」
 再び声をかけた。
(そうだ、携帯!)
 携帯をベッドの側に置いてきたのを思い出し、急いで二階に上がった。
 ベッドの隅に立って、浩二に電話した。
(早く……)
 数回の呼び出しのあと、浩二が出た。
「どうしたんだい?……さっき、なにか言い忘れたのかい?」
「だれかいるみたい」
「はぁ、家の中にかい?」
「ドアの軋むような音がしたのよ。……それでもう、怖くなって……」
「なんだ、それだけかよ」
「だって、今までそんな音、聞いたことないんだもん……」
「風じゃないか?」
「そうね……そうよね……なんだかあなたの声を聞いたら安心しちゃった」
「ばかだな……鍵をかけたんなら、人がいるわけないだろう」
「もう、……早く戻ってきて欲しいわ……」
「俺が欲しくなったってか?」
「ううん……エッチィ……わかってるくせにぃ……」
「しばらくは……無理だな……今の仕事が一段落するまでは、あと二三ヶ月はかかるな」
「ううん……待てないぃぃ」
「まあ、今回の単身赴任が終われば、しばらくは大丈夫だから……」
「そうね。……わかったわ。がまんする」
「えへへ……がまんって何をだい?」
「もう、すけべなんだから!……切るわよ」
「ああ、戸締まりして……じゃあなぁ……また」


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