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ケイの災難
【コメディ 恋愛小説】

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ケイの災難-2

「お、おい、香織」
急に抱きつかれ慌てる俺を見て香織は悪戯っ子のような笑顔になって嬉しそうに俺の胸に頬を寄せてきた。
「いいじゃない。だって、今日の撮影ハードで疲れちゃったんだもん。少し癒させてぇ」
「嘘付け、あれ位の撮影で根を上げるタマじゃないだろうに」
俺が笑いながら香織の髪を優しく手で梳くと、香織はクスクス笑いながら目を閉じて身体を俺に預けてきた。
「あー、気持ちいい…本当に癒されるぅ。しばらくこうしてもらって良いかな?」
「ああ、それじゃしばらくこうしてるよ」
「あ、でも、枝毛は探さないでね」
香織のサラサラで長い髪を手で梳っていると正直こっちも気持ちいいのだ。しかし、男の俺から見ると香織の髪はとてもコンディションが良さそうに見えるのだが、女の子からしたらそうでもないのだろうか?
しばらくの間、そんな感じでゆっくりしてると香織の携帯が鳴り出したのだった。

香織の携帯が鳴り斉藤さんの到着を確認し、俺と香織はスタジオの裏口に回り車に乗り込もうとした時、予想外の人物がこっちに向かって走ってくるのが見えた。
その姿は間違えなく藤堂である。なんて勘の良い奴なんだよ…。
「ケイさーーーーん!!」
「ゲッ!?なんて足の速さだよっ」
俺が信じられないって表情をして固まってると俺を庇うように香織が前に立ち気合を入れ始めたのだ。そして、その手には恐らく車に置いてあったのであろうと思われる竹刀が握られていた。
そんな香織の姿など眼中にないかの様にすごい勢いで間近まで走ってくる藤堂に対し、香織は気合一閃の面を藤堂に繰り出したのだった。
「ぐぎゃぁぁぁぁぁぁっ!!」
香織の渾身の一撃をくらいそのまま地面に倒れこむ藤堂を見て俺はため息と同時に胸を撫で下ろした。
「全く、本っ当にしつこいわねアンタ。藤堂の家はストーカーも育ててるわけ?」
手にした竹刀で自分の肩を叩き、香織は未だ地面に倒れている藤堂を呆れたような表情で見下ろしていた。
「なんだとー!心底失礼な女だな君は。これだから朱鷺塚の女は……」
藤堂はいきなり起き上がると心外だとばかりに香織に詰め寄ったのだった。
「な、なによ!アンタがケイにしてる事を考えれば言われて当然の事でしょうに」
「ふっ…これだから朱鷺塚の次女は思慮が足らんと言うのだ。やれやれ、ケイさんと比べて品も足りなければ知能も足りないとは。僕の行動はケイさんを愛するが為にしている事だって理解できないのかなぁ」
藤堂は自分の服の埃を払いながら呆れたと言わんばかりに首を横に振り更に言葉を続けた。
「それに何で君は僕の恋を邪魔するのかね?恋愛のれの字も知らないような君が」
「うっさいわね!私の恋愛事情は関係ないでしょ!それから、アンタのケイに対する邪な恋なんてその辺の池に放流してきてあげるわよっ!!」
香織は怒りの表情で手に持っていた竹刀を藤堂に突きつけた。そろそろ事態を収拾しないといつまでも家に帰れないと思った俺はしょーがないと思いつつ、香織の肩に手を乗せて耳打ちをした。
「香織、藤堂の足止めをするからすぐに車を出せるようにしておいてくれないかな」
藤堂との言い争いで気が昂っていた香織だったが、俺の言葉をすぐに理解してくれたようでニコッと笑うと「任せたわね」と言い、車の中にいる斉藤さんに指示を出しに行った。
「ああ、ケイさん。やっと邪魔者がいなくなって貴女と愛を語り合える事ができるようになりましたね」
「い、いや、私は藤堂くんに対して愛はないから…」
「そんなっ!?では、ケイさんの愛は一体どこに?」
「50音の最初の方にあるんじゃないの……」
あー、もうウンザリ…こいつなんとかならないかなぁ。男に好かれても真剣に迷惑なんだよね。
そう思ってるうちに藤堂が俺の左手を握ってきて背筋に悪寒が走り、速攻で逃げたくなるのと同時に怒りが沸々と湧いてきた。


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