10.おっぱいチェック-1
右乳房、上下1回、左右3回。
左乳房、上下18回、左右1回。
朋美がちゃんと撮影を終えられるまでにこなした、マンモグラフィーの回数だ。 最後の左乳房の側面検査が1回で済んだのは、既に疲労困憊の極致にあった朋美に、動く気力すら残されていなかったためである。 合計23回のマンモグラフィーで得られたX線画像。 それらを前にした女医は、
「うん。 異常ないわ。 ま、触診で分かってたし、この若さで異常があるわけないから、当然ね」
といって、朋美の前でX線画像をクシャクシャに丸めてゴミ箱に捨てた。 朋美は、既に意識が限界の外に逝ってしまっていて、自分が限界を超えて撮影した画像が廃棄される様子をみても、特段の反応は示さない。 鼻の穴も尿道口もパックリ開いているというのに、チョロッと液体が流れることもなく、ただ黒い肉色の内部を晒していた。
「どうしましょう。 朋美さん、グダグダに壊れちゃってますけど」
思いきり乳首を抓っても、何も朋美が反応しないため、さすがにみさきも心配そうだ。
「問題ないわ。 おっぱい検査で傷つけるなんてことは絶対ないもの。 いつも通りにケアすれば、一晩で元通りの元気おっぱいよ」
パンパンと、乳肉を平手ではたきながら女医が答える。 確かにあれだけの衝撃の割には、朋美のおっぱいは破けていないし、血がでてすらいなかった。 もっとも内部は内出血だらけで、すべてが無傷なわけはない。 パンパン、いやカンカンになった乳房全体は、気味悪い青黒さに染まっていた。
「じゃあ、おっぱい検査は予定通り続行ですか?」
「当たり前じゃない。 意識がバカになって――脳内麻薬が分泌過多になっちゃってるだけよ。 彼女の反応が見れないのは興ざめだけど……ま、23回もマンモしたんだし、バカになるまで追い込めたし、おっぱい検診の恐ろしさは彼女もお乳の芯まで分かったでしょう。 別に気絶したわけでもないし、反応が薄いだけなら問題ないわ。 さ、検査はあと2つよ。 さっさと終わらしちゃいましょうか」
「は、はい先輩」
隣では自分の処遇に関する二人の会話だ。 ただ、朋美が反応することはない。 耳に入っていないわけではないが、今の朋美は、いわば『意識があって意識がない』状態なのだ。 虚ろな瞳で首を垂れたまま、朋美は隣の装置に運ばれた。