P脅迫-1
P脅迫
翌日の朝、正也の姿は詩織の寝室にあった。
パソコンのパスワードを突破しハードディスクのデータを根こそぎ吸い取っている。
膨大なデータを盗んでいる間に防犯カメラを元の状態に戻した。
指紋を消しドライバーなどの忘れ物を警戒し部屋中をチェックした。
大急ぎで学校へ走ったがもうすでに3時間目が始まっていた。
職員室に呼ばれこっぴどく叱られたがじっと耐えた。
大きな収穫の前には微々たる事のように思えた。
放課後の練習も心ここにあらずで済ませ大急ぎで帰宅し詩織のデータを覗いた。
いくつかのファイルに分けられ綺麗に整理されている。
それだけで彼女の几帳面な性格が見て取れる。
最新のファイルには今担当している事件に関するデータのすべてが記録されている。
被疑者の名前、顔写真など。証拠物件の写真。供述調書や取り調べの進行状況など。
要はこの事件のあらゆる記録だ。
きっと持ち出し禁止のデータだろう。
発熱して寝ている息子のために早く帰らなければならないときに起訴する日が迫っていたら
自宅で続きの作業をするのが母の心だろう。
二度三度繰り返すうちに習慣になってしまったのかもしれない。
証拠物件の写真をスマホに取り込んだ。
今係争中の訴訟が1件あるだけで他は判決済みのものばかりだ。
そのファイルの中にパスワードに守られたものを発見した。
早速「guilty76」と入力したが合致しなかった。
深夜、楠田の部屋の電気が消えた後、詩織を訪ねた。
「もう、なによ。あの件は終りだって言ったでしょ。二度と来ないで。」
柳眉を逆立てて怒り狂っている。即座にドアーを閉めようとしたが足をはさんで阻止した。
「おばさん。あの件は僕も諦めました。今日来たのは松本信二の件なんです。」
担当事件の被疑者の名前を言われ彼女は目を見張った。
「ど、どっ、どうしてそれを知っているの?名前はまだ公表されていないはずだわ。」
「だから相談に来ました。入れてくれますよね。」
応接間に通された。明るい照明の下にネグリジェ姿の詩織がいた。
うっすらとショーツが透けて見えるがブラはない。
見事なプロポーションが目の前にある。
この素晴らしい肉体を自由にできる魔法を僕は手に入れた。
これほど大きな脅迫材料はないだろう。
彼女の首は飛び、検察は世論に叩かれ検事総長の首も危ないだろう。
いきなり彼女を抱きしめた。細い腰に手を回したまま何にもしない。
ただ、黙って彼女の目を見つめる。
「僕の気持ちは分かっているよね。」それだけ言ってじっと目を覗き込む。
おずおずと唇を合わせてきた。よし、勝った。
「もっと濃厚なのをお願いします。」
舌を差し入れてくる。だんだん息遣いが激しくなり彼女も感じ始めたようだ。
「ここじゃ楠田を起こしてしまう。寝室へ行きましょうか。」
「駄目よ。寝室は駄目よ。それじゃまるで私が坂本君を誘ったみたいじゃないの。」
「そう。誘って欲しいんだ。」
「その前になぜ君が被疑者の名前を知っているのか教えて。」
「それはまだ言えない。でもこんなものも持っているんだ。」
スマホを開き証拠物件の写真を見せた。
「話はここまでだ。これ以上話たければ寝室を開けなさい。嫌なら帰る。」
玄関に向かった。「待って。分かったわよ。」寝室に入った。