誠とラサ-2
それから僕とラサとは数週間、会っても口をきかなかった。会うこともほとんどないのだが、夕食前、僕が帰るときに見かけたりしても、ラサのほうで避けた。無視でなく、逃げているふうに見えた。しかし、一度はこちらに目を向けて、すぐまた逸らすのだった。
「Ĉu vi ne havas tempon? Iam nokte?」
ある日、ラサがいきなり話しかけてきた。それもエスペラントでだった。
「Ĉu vi povis paroli Esperante?」
驚いた僕が尋ねると
「Ne, mi lernis.」
この数週間のうちに学んだのだと言った。
「Post kiam Ira endormis, ni iru al la urbocentro, ĉu?」
夜、二人で街に出かけたいと言うのだが、イーラに話しておかなくてはならないと僕は思った。あのことをドンブロフスキーさんには言わないと、この前は聞いたけれど、そんな保証は無いわけだし、伝え方によっては、ラサとのことも僕の罪に数えられてしまうだろう。
言わば、ラサに僕は首根っこを押さえられていて、それをイーラのか細い腕に支えられている状態なのだ。ラサがどう考えているか僕は実のところ知らなかった。何にせよ、ラサの望みは断りがたく、イーラの支えは失えない。
「Mi devas paroli kun Ira, sed mi konsentas.」
「Nu, bone.」
仕方ないという表情をしてラサは答えた。しかし何だか嬉しそうに見えた。