4.セックス・セラピスト-7
――そしてその二週間後。
『ガーデン・ルーム』のベッドにはどちらも下着姿の春美とケンジ。春美はアイマスクをしている。
「なんで春美は目隠しを?」
モニタールームで春人が隣に座ったミカに訊いた。
「相手が春人君だと思い込んでもらう必要があるんだよ」
そう言ってミカはヘッドセットを頭に装着した。そして口元に伸びたマイクに向かって言った。「始めて、ケンジ」
ベッドの上のケンジは、モニタールームのマジックミラーに向かって親指を立てた。
ケンジは春美を仰向けに寝かせると、髪を何度も撫でながらそっと唇を重ねた。始めはついばむように時々口を離して耳元できれいだよ、春美、と囁いた。
「見てみな、春人君、春美さんの肌がもうピンク色に染まって、力が抜けているだろ?」
「ほんとだ、なんかほんのり染まってる……」
「女の子がうっとりするような雰囲気は、触れるか触れないかぐらいのボディタッチと優しいキスから始めるのが基本」
「なるほどー」
ケンジのキスは次第にディープになっていき、そのうちに春美の方からケンジの唇を求めるようになっていった。そしてケンジは自分の唇を首筋から耳の後ろ、春美を横向きにしてうなじから背中へ這わせていった。春美はすでに小さな喘ぎ声を上げ始めた。
春美の上半身を起こして、ぎゅっと抱きしめながらケンジはまた優しくキスをした。そして唇を重ね合ったまま背中に手を回してブラのホックを外した。
「決して焦っちゃだめ。君は男だから早く春美さんの中に入りたいと思うだろうけど、それじゃだめなんだよ。春美さんがまず気持ちよくなることを考えないと」
「そうか」
ケンジは春美を再び仰向けに横たえ、その乳房の片方ずつに交互にキスをしたり、乳首を吸ったりした。空いた乳房はその大きな手で包み込んで柔らかくさすった。
「ああ、春人……」
春美は小さく口にした。
「ほら、ベッドで愛し合ってる時、あんな風に自分の名前を呼ばれたら嬉しいだろ?」
「はい。そうですね。今までなかったです、あんな声で春美が俺の名前を呼んでくれたこと」
春美の身体を慈しむように撫で、唇を這わせながら、ケンジは彼女の身体中の反応をくまなく確認した。それから横から春美の身体を腕に抱き、キスをしながらもう一方の手でゆっくりと彼女のショーツを下ろし始めた。
「ああ、欲しい、欲しいよ、春人……」
アイマスクをしたままの春美は思わず言った。
「すでに準備OKだな」ミカが言った。
「春美が欲しがる姿も、俺初めて見ました」
「かなり濡れてるようだぞ。見えるか?」
「おお、ほんとだ、シーツまで濡れてる……いよいよ合体ですね?」
「何だよ『合体』って」ミカが顔を紅潮させて昂奮し始めた春人を呆れたように横目で見た。「でもそうはいかないんだな、これが」
「え? そうなんですか?」
ケンジは春美の両脚を腕に抱えて、その秘部に静かに顔を埋めた。
ああっ、と小さく悲鳴を上げて、春美は身体を仰け反らせた。ケンジの舌がクリトリスを捉えたのだった。
そしてゆっくりと時間をかけてケンジはその行為を続けた。時折彼の手は春美のへその周辺やヒップの膨らみを撫で、さすった。
春美は細かく身体を震わせ始めた。
「めっちゃ気持ちよさそう……」春人がつぶやいた。
ケンジは口の周りについた春美の愛液を手で拭って、再び時間をかけてまたキスをした。そして静かに口を離して春美の耳元で囁いた「いい? 春美」
春美は焦ったように言った。「来て、春人、早く来て」
ケンジは再び熱いキスをしながら自分の下着を脱ぎ去り、そのまま素早くコンドームを装着した。そして口を離して自分の唾液をペニスの先端のゴムに塗りつけると、春美の両脚をゆっくりと開かせた。
「いくよ、春美」
春美は大きくうなずいた。
ケンジはゆっくりと、少しずつペニスを春美の中に沈み込ませて言った。
「ああ、春人、春人っ!」
春美は大きく喘ぎ始めた。そして動き始めたケンジに合わせて、自分も身体を上下に揺すり始めた。
「今、二人の身体が同じ波長で共鳴しているんだよ」
「ケンジさんすごい……さ、さすがセックス・マスター」
春人がはあはあと息を荒くしながら、上ずった声で言葉少なにつぶやいた。
それからケンジは春美を抱え上げて座位のスタイルで繋がり合ったり、足を交差させてペニスを抜くことなく後背位で出し入れしたり、自らが仰向けになって春美を自分の上に乗せ、騎乗位で主導権を握らせたりして昂奮を高めていった。
そして、最後に正常位のスタイルに戻ってぎゅっと力を込めてその身体を抱き、腰の動きを速くした。春美はもう大声で喘ぎ、汗だくになって身体を揺らしていた。
「イくよ、春美、一緒に」
ケンジも全身に汗を光らせながら荒い息と共に言った。
イく、イくと春美が何度も叫び身体をひくひくと痙攣させ始めた時、ケンジは喉元でぐうっ、と呻いて腰の動きを止めた。
「ああーっ!」
春美が悲鳴のような声を上げ、上になったケンジの身体をその細い腕で締め付けた。ケンジは射精の反射が終わっても、そのまま春美を抱いたままじっとしていた。
はあはあと激しく息をしながら、春美は身体の力を抜き去り、ぐったりと両手をシーツに放り出した。
ケンジはまた優しく彼女の髪を撫で、柔らかくついばむようなキスをした。
春美ははあっと大きなため息をついた。
「ミカさんっ!」突然春人が真っ赤な顔をして叫んだ。
「な、なに? どうしたの?」
「ト、トイレ貸して下さいっ! イ、イきそうですっ!」
股間を押さえて立ち上がった春人は慌てて奥にあるトイレに駆け込んだ。