〜 特訓終了 〜-2
頬っぺたを引き攣らせかけた私に、
「うん。 それはそれでアリと思う。 学年トップを取るとか、そうしてくれたら嬉しいよ」
横から【B29番】先輩が真顔で答えます。
「史性寮は代々学園のエリートなんだよね。 各教科の首席も、総合首席も、だいたい私たちの誰かが取ってきた。 クラスの平均点だって、どの学年でもほとんど2組が――史性寮はいつでも2組の決まりなんだけど――トップだっていうの、知ってた?」
片づけながら【B29番】先輩が話をしてくれて、初めて聞く内容に、思わず私達は顔を見合わせました。 首席、成績優秀、そういうのは1組の専売特許だと思っていたからです。 たぶん、22番さんも同じです。 私たちからすれば、少なくとも学年集会や学年行事では、1組の方が2組より断然しっかりしている印象でした。
「体育祭も、学園祭も、合唱コンクールだってそう。 クラス単位で競う行事があれば、だいたい2組が一番なんだ。 少なくともここ3年間はね。 この学園じゃあさ、自分でいうのも寂しいけどさ、卑猥で変態なクラスが勝つわけだから、一番をとることがいいことか悪いことかはよくわかんないけどね。 自慢じゃないけど、私達って、負けた記憶は1つもない」
淡々と喋ってますけど、これって本当なら驚きです。 確率的にいっても、3回勝負があれば勝つのは1回で、残りは1位を譲るものです。
「だから、どんな方向性であれ、後輩のお前達が強くなってくれたらいいな、って思ってるのは本当なんだ。 与えられた環境で頑張るのと頑張らないのとじゃ、どんな環境であっても、頑張る方がいい。 あんまり深く考えないでさ、開き直って学園的な優秀さを目指せるなら……それって十分アリだと思ってる。 幸せのカタチに入れるのもアリじゃないかって……そう思わない?」
チラリ、こちらを振り返ります。 咄嗟だったから、私は何も考えずに頷きました。
「アリって思うなら、ま、せいぜい頑張ること。 Cグループ生の1年間が1番大変だと思うけど、私たちがクリアできたカリキュラムなんだから、お前達にもクリアできると思うよ」
そういって【B29番】先輩はジッと私を見つめました。
私に出来たから貴方にも出来る……そう言われたら返す言葉がありません。 私と先輩は違う、といえたなら楽なんでしょうけれど、それを言っちゃお終いです。
「……返事は? そう思うの、思わないの?」
「あ、は、はい! そう思います!」
言い淀む暇も与えてくれません。 私は大きく返事をしました。 そう思わない、といったらウソになります。 まあ、そう思う、といっても本当かどうかは微妙ですけど、少なくとも100%の嘘じゃないので、ちゃんと先輩の眼を見て答えることが出来ました。
「上出来。 じゃ、もう遅いから早く寝なさいよね」
「おやすみなさい〜♪」
片付けた段ボールを小脇に抱え、連れ立って教室を出てゆく2人に、
「「ありがとうございました!!」」
今日何度目になるか分からない御礼と共に、22番さんと2人して頭を下げます。
バタン、ドアの締まる音。
最後までさりげなく、先輩方は去っていきました。
シーン。
急に静かになった相談室。 長い間続いた特訓の終幕にしてはあっけなくて、何だか拍子抜けしちゃいました。 一方で体感的には、急に肩が重くなって、ドッと背中にのしかかった感じです。 先輩がいなくなったので緊張感が抜けたからですね。 【B29番】先輩や【B2番】先輩は、他の先輩方に比べれば断然接しやすいですけど、それでも先輩は先輩です。 言葉一つ返すにしてもバッチリ緊張してたんだなって、いなくなったら実感します。
「……2番さんは、クラスのトップ……ううん、学年トップになれると思う」
唐突に、ポソリ。 耳元に呟きが聞こえました。
「え?」
顔をあげると、22番さんが、真正面から私を見つめていて、
「そんな気がする。 もちろん全部が全部じゃないけど、ほとんどの科目でトップを目指していいと思う」
きっぱりと言い切るじゃないですか。
「えっと……いや、そんなこといわれても……」
「でも、取りたいんでしょ?」
「無理無理。 私なんてみそっかすですもん。 でも、学園で留年とかしたくないし、平均点くらいは取れたらいいな〜くらいは思いますけど」
「……1番じゃなくていいの? 本当に?」
22番さんは眉ひとつ動かしません。
「ええ〜? だって、1番になるっていったって、簡単じゃないよ」
「そんなこといって、この学園にいるってことは、幼年学校でトップだったんでしょ。 私たちはみんなそうだよ。 1番を取り続けてきたんだから、これからも1番になればいいじゃない」
「はあ……? 1番になればいいって……随分簡単にいわないでくださいよ……」
「好きなんでしょ、人より成績がいいってことが」
「……」
カチン、ときました。 22番さん……委員長だからって、私より偉いつもりなんでしょうか。