い-6
自販機コーナーでうつむいて目をつぶって私を待っていた重田さんが
私たちの気配で顔をあげる。
「森川君」
重田さんはそう呟いた後、気を取り直して
「どうした?」
と聞いた。
「重田さん、あんたたちのN.Y.チームがあの数字を見落としていたことは
すでに見当が付いていたんだ」
「・・・・」
「事もあろうにマスターファイルを書き直そうとしたな?」
そう詰め寄る啓に重田さんはしらを切る。
「言っている意味が分からないな」
「明日香にこんな事させやがって」
「俺は、強要してないよ」
表情から重田さんが開き直ったのが分かった。
「明日香が、してくれるって言ったんだ」
「どんなふうに脅した?」
啓は、ものすごく怖かった。
いつもの穏やかな啓からは想像も出来ないような声だった。
「脅してない。提案したんだ」
「・・・・」
「やり直そうって、な」
「え・・・・」
「な。明日香?俺と一緒にN.Y.に行こう」
「明日香・・・」
さっきまでの怖い雰囲気を一気に沈めて
啓は静かな無表情の仮面をかぶった。