っ-6
そんな時、食堂の入口が騒がしくなったけど
森川兄弟の話で盛り上がっていた私たちは注意を向けなかった。
「あぁ。いた」
遠くから聞こえるその声に
気持ちよりも先に心臓が打った。
ドクン―――
自分の心臓の音にびっくりする。
「原田さん」
私の名字を呼ぶその声に
心臓が波打った原因を脳が理解して
さらに心臓が狂ったように動き出す。
私はその声の方に振り向く勇気は、ない。
「原田さん」
私が聞こえていないと思ったのか、その声はもう一度私の名前を呼ぶ。
その声に紗江子ちゃんが顔をあげて言葉を失った。
それでも、思わずこぼれ出た言葉に私自身も血の気が引いた。
「重田さん」
ああ、やっぱり。
紗江子ちゃんは、私の思った通りの人の名を―――口にした。