振動-4
雑居ビルの建ち並ぶ駅の北口。
銀行から出てきた男が、ちづるに気がついて呼んでいる。
「常盤さーーん?」
男はちづるの元に歩いてくる。
歩いてる時にちづるの顔をみながら
「あ、やっぱり」とニコニコしながら言う。
ちづるが小さい声で言う。
「あ、、吉川さん 」
「俺、今日早番で今終わったんだ。
買い物?」
吉川と呼ばれた男はチラリとタクミを見る。
タクミと背は同じぐらいだが、
タクミよりもガッチリとした身体つきをしている。
頭が茶髪の坊主で、肌は色黒だ。
ちづると年は近そうに見えた。
タクミはペコリと会釈をしながら思う。
なんか チャラそーー
ちづちゃんの職場の人 か?
ちづるが吉川に言う。
「ぁ、、うん。
この子、私のイトコで、
買い物してたの 。」
「、 、 、、。
イトコのタクミ です。」
『この子』 、 、。
ぁ なんか
グサっと きた
吉川は言う。
「そっか。」
「ん、うん、。
、 、 、、じゃあ、
また 、、 」
「っ あーー、待って。
来週の飲み会、来る?」
「 ぇ? ぁ 、、
ううん、まだ、、どうしようか
迷ってて、 、 」
「ぇー? 来てよ。
まだ、キッチンの人達とは
沢山話した事とか、
ないっしょ?」
「ん、 ぅん、、。」
「夜だから、
旦那さんに怒られちゃう?」
「ぁ、ううん、 それは、、」
「あ、でも、
あんま帰ってこないって
聞いたけど? 」
「 ぇ? 」
そんな会話をしていると、
タクミがちづるに言う。
「あ、、ゴメン、、
ちょっと電話だ。」
「 ぇっ?」
「ゴメンね。
ちょっと待っててー。」
タクミはスマホを耳にあて、
「もしもーし」と話しながら
2人から離れた。
電話は、かかってきていなかった。
タクミは少し離れた所から、
電話をしているフリをして、
2人の会話を聞く事にした。
タクミは思う。
なに あの男
超 馴れ馴れしーー
急いでるのに
っつーか ちづちゃん
身体 大丈夫かな
早歩きでイキそうに
なってたって事は
止まってたら 大丈夫 か
ちづるはタクミが
離れたのを見届けると、
慌てて吉川に聞く。
「、、なんで、吉川さんがそれ
知ってるの?」
「え?
まぁ、、噂。
っつーか、
洋一でいいって言ってんじゃん。」
「 ぇ? 」
「名前。
バーミーは、皆、
下の名前で呼び合ってる人のが
多いんだよ?」
「あ、 うん、、。」
「次から下の名前 ね。
俺も、下で呼ぶから。
ね? ちづる。」
「 、、っ、 うん。
、 、っ!!!? ぁ っ! 」
その時。
ちづるの中のローターが振動した。
タクミが、スイッチを押した。
吉川という男が、ちづるの事を
下の名前で呼んだ時、
タクミは、頭の中でプツンと
糸がキレた。
ちづるは思わず、
下腹部に手を当ててうつむく。
「〜っ、 っ、 」
「? どーしたの?」
「ぁ、 ううん、
ちょっと、 お腹痛くて、 、」
「え? 大丈夫?」
「うん、っ、
もう、帰る所だったから、、
あの子が、送ってくれるから、」
「本当、平気?
震えてるよ?
あ、駅ビルのトイレの方が、
近い、、、、」
吉川はそう言うと、
ちづるの背中に手を伸ばそうとした。