待ち合わせ-2
タクミとの約束では、
タクミが9:15に家を出て、ちづるが
9:30に家を出る事になっていた。
ちづるは、
待たせるのは悪いから、
待ち合わせをしたいなら自分が
先に行く、と提案したがタクミは
それを断った。
朝、ラインでのやりとりの中、
タクミはその理由をこう言っていた。
【男が待って、女が後からくる。
これが定番のデートでしょ。】
定番、という言葉を使ったタクミが
なんだかおかしくて、
ちづるはスマホを見て
思わずふふっと笑った。
黒いコートを着て、
ボルドー色のハイヒールを履き、
9:30ピッタリに家を出た。
家を出て、
市営住宅の外の階段を下りる。
自転車駐輪場から
駅に向かって歩き始めて
すぐに空を見上げる。
昨日の夜は雨が降っていたが、
今は晴れて、雲は多いが
日差しが差し込んでいる。
小さく独り言を言う。
「、、晴れて、良かった。」
タクミの待つT駅に
思いを馳せて早足で向かった。
T駅北口の駅ビルは、屋外2階に
モノレール乗り場や百貨店につながる
大きなエントランスホールがある。
そこには、コーヒーショップ、花屋、ファーストフード店などが建ち並んでいる。
2人は、そこの
コーヒーショップの前で
待ち合わせをした。
タクミはコーヒーショップの
前に着くと少しの間、
ぼんやりと人混みを眺めていた。
日曜の朝の街は、家族連れや学生、
カップルなどで賑わっている。
しばらくすると、
ポケットからスマホを取り出し、
時間を確認する。
「、、、 。」
ちづちゃん、何着てくるかな
あ ーー
なんか テンションあがってきた
お外で〜〜
お散歩〜 〜 ♪
、、 、って。
犬バージョンのちづちゃんしか
浮かばないなーー
タクミは、
ニヤニヤしてしまいそうになるのを
かみ殺した。
コーヒーショップの
ガラスの窓に映る自分が
ふと視界に入る。
ニヤつかないよう、
頬を拳で押した後に
窓に映った自分を見ながら
前髪を整える。
すると、背後から声をかけられた。
「あの、 、!
新海先輩、
ですよねぇ ?」
「え ?」
声がした方を振り向くと
女の子が3人、そこに居た。
タクミは女の子達の顔を確認するように眺めるが、1人も顔が分からない。
小さく呟く。
「ぇーー、 、、?」
先輩 ? ?
あ、 。
「同じ、、高校?」
タクミがそう聞くと、
白いパーカーを着た、おかっぱ頭の子が答えた。
「そーですっ!
そーですーー!!」
何が面白いのか、おかっぱ頭の子は、
友達をバシバシと叩きながら笑っている。
バシバシと叩かれている
ロングヘアーの女の子も笑っている。
叩かれながらその子が言う。
「え、? 何してるんですか?
村本先輩は、いないんですか!?」
「え ? 健? うん、、。」
「そーなんですかー!
あっ! もしかして
菊地先輩と、 」
ロングヘアーの女の子がそういうと、
ずっと黙ってた、少しぽっちゃりした子がすかさず口を挟み、ロングヘアーの女の子に耳打ちをする。
(ちょっと、! 菊地先輩とは〜〜)
タクミにも内緒話が少し聞き取れた。
菊地とは由佳の名字だ。
どんな話をしているか、
タクミにも容易く想像が出来る。