ミ (side紗江子)-4
「紗江子ちゃんは、どうなの?」
「浅岡さん?」
今日はビールがよく進む。
「私もどうにもならない。
やめなきゃいけないのはわかってる。
でもね。それが正論だからって辞められるほど大人じゃないんだよね」
そんな私の言葉に明日香は小さく笑った。
「私たち、28だよ?いま女としていい時期なのにね」
「ほんと。もったいない」
「いい恋しないとね」
「いい恋したいなぁ」
私たちが一歩踏み出せばいいのかもしれないけど
その一歩はとてつもなく重い一歩で。
踏み出す勇気さえ、その時の私たちにはなかった。
そして―――
数日後、会社に行くと浅岡さんの奥さんが妊娠した話が
社内で広まっていて
秘書課の私のところに届くのもそう遅い時間ではなかった。
悲しいというより、呆れた。
私の3年間は何だったんだろう。
私は本気で好きだったから、その時間を返してくれとは言わない。
でもせめて。
せめて、あなたの口から聞きたかったよ。