打ち合わせ-3
「大丈夫です」
「オレも大丈夫だけど、田川はどうかな?」
陽子の問いに、星司は頷き、雄一が横にいる田川をチラリと見ながら答えた。高校生時代から、堅物だった田川には少し酷なミッションだったが仕方がなかった。ナンパ馴れした宮本の仕事が繁忙期に入り、乾と田川でジャンケンをして決めたのだ。もちろん、ジャンケンで決めたことは、目の前のプレイヤー達には内緒だった
「まあ、何とかいけました。陽子さんが用意してくれたブランドスーツとBMWの効果は抜群でしたからね」
各務家、特に陽子にとっては、その手の小道具の手配は容易だった。
「そうでしょ、あんな最低なヤツは、総じて金持ちに目がないって決まってますからね。BMWの最高級を見せたら涎を垂らしますよ。早く浮かれた顔に地獄を見せてやりたいですね」
海野がその場を代表した意見を言った。
「うふふ、もう少しの我慢ですよ。じゃあ、3人とも餌に食い付いたということでいいわね」
「大丈夫です」
陽子は幸先のよさに満足しながら続けた。
「当日は10時まではそのレストランで引っ張っていてね。10時になれば店の人が制限時間になったと言って知らせてくれるから、それまでは時間を気にせずに愛を育むのよ」
以前、時間を気にした宮本が不自然な芝居をしたことがあったため、それ以降は時間になれば店員が退席を促すように手配していた。
「当然ながらあなた達3人は他人のフリよ。お互いに目を合わさないようにね。特に初めての田川さんは注意してください」
「はい」
田川は素直に頷いた。
「食事を終える時間には少し遅いけど、それまで儚い夢を見させてあげましょうね。そうそう、車を止めた場所は回収班に必ずメールを入れるのを忘れないこと。手島くん、前々回、メールするのを忘れたでしょ」
「えっ?そうだっけ?」
雄一は惚けた。
「屋内駐車場に止めてたから、探すのに大変だったらしいわよ」
「気をつけま〜す。おい、田川、そういうことだから気を付けろよ」
「オレに振るな。優子ちゃん、オレはこんな軽い奴と違って、手落ちはしないからね」
「えっ?あっ、が、頑張ってくださいね」
配られた資料に目を落としていた優子は、突然名前を呼ばれて慌てた。優子は、ここに居る者は元より、全ての参加者のスケジュールを分単位で把握し、その都度、各人の動きを効率的に手配する陽子の処理能力の高さに、圧倒されていたのだ。
もし、書かれたスケジュールに躓きが出た場合でも、その都度陽子がその時点で最良の方法で修正処理が行われた。また、その的確さには定評があると、星司が優子に説明を加えた。
「但し、車両が動くまでよ。車両が動いたらあたしは自由に楽しむのよ」
そう言って笑った陽子の説明は続いた。
「車は使わずに、駅に着くまで5分の歩き。週間天気予報では雨の心配はなさそうね。ホームに着いたら、それぞれ前方、中央、後方の乗車口に別れてターゲットをエスコートしてね」
「了解」