冥界の遁走曲〜第二章(前編)〜-6
「もしかして私すごく邪魔なんじゃ……?」
「そんな事はねえよ」
「心配しなくてもこの馬鹿とは二人きりになる時の方が多いから」
言って楓は苦笑する。
「でも俺としちゃあ癒姫ちゃんにも早く相手が見つかるといいなって思うわけだ」
「そうね、癒姫にとってその人が心の支えになるかもしれないし、ね?」
「あ、はい……」
先輩に言われているような幹事で癒姫は小さく返事をする。
年齢は大して変わらないはずなのに目の前にいる二人が凄く大人に見えてそれがとても羨ましかった。
……私も早く好きな人を作らないとなぁ……
気になる人なら二人いるが恋愛感情にまで達していると自認している者は一人もいないと言うのが癒姫の心情だった。
それなのに凄く慌てたのは何故だろうと考えてみるものの答えが見つからない癒姫であった。
そして癒姫がそんな事を考えていると突然館内放送が鳴り響いた。
第八部 「来訪者は突然に」
「おじゃましまーす♪」
機嫌よく闘夜の家に入ってきたのは闘夜の唯一の友達である、山田 裕太だ。
今日は闘夜が初めて友達を家に泊める日だ。
次の日が土曜日なので裕太は闘夜に頼んで泊まりたいと言い出した。
闘夜は特に断る理由もなかったので簡単にOKを出した。
そして現在に至ると言うわけだ。
裕太は早速リビングにあるテーブルに座る。
「いやぁ〜、闘夜の晩飯、楽しみだぜ」
ウキウキしながらごちる裕太に対して、
「いや、今日はそんなに凄い料理でもないから」
と言いつつ、裕太が来る前から作っておいたカレーを裕太の前に置く。
その後にスプーンを持ってきてやるとそれを素早く取って一心不乱に食べだした。
「んがんがんが……んぐ!!」
何やらのどをおさえて苦しみだした。
闘夜は呆れながら水を差し出した。
裕太はそれを一気に飲み干す。
「っぷはぁ〜〜〜!
死ぬかと思った……」
「実際、水が無かったら死んでたね」
闘夜がダークなジョークでその場を流す。
「にしてもお前のカレー美味いな」
「普通の料理で普通に作ったカレーなんだけど喜んでもらえるなら嬉しいよ」
言って闘夜もようやく一口目を食べた。
味はそんなに悪くない。
言うほど良くもないが。
「なぁ、闘夜」
口を止めた裕太が闘夜に問いかける。
「お前、今日霜月と話してたらしいけど何話してたんだ?」
闘夜はカレーを噴出しそうになった。
あの現場には自分と神楽以外には誰もいなかったはずだ。
「な、何でそれを知ってるんだ!?」
「運動部が走り込みしてる時に屋上にいたのを見たらしい」
闘夜が通っている学校の校舎は四階建てで、屋上が見えるようになっているとはいえ、運動場から闘夜だと判断するには相当な視力が必要だ。
「で、何を話してたんだ?」
裕太はいつになく真面目な顔で闘夜に詰め寄ってきた。
闘夜はその時に言いようの無い恐怖感を覚えた。
「好きな人はいるか?って聞かれただけだけど……」
「そうか……」
裕太は焦点の合わないような目をした。
だがそれも数瞬のうちに終わり、
「で、お前はなんて答えたんだ?」
先程とは打って変わって今度は興味津々に聞いてきた。
「いないって答えた」
「なるほど……」
裕太は納得して再びカレーを口に入れ、
「で、本当のところどうなんだ?」
「だ、だからいないって……」
「嘘だな」
裕太はきっぱりと断言した。
「ここ最近変だと思ったんだ。
お前さ、放課後いつも屋上に行って考え込んでるだろ?
好きな人の事考えてたんじゃねえのか?」
「違うって!そんなんじゃないよ!」
「じゃあ何なんだ?」
闘夜は押し黙ってしまった。
まさか裕太に冥界の事を考えていたなんて言える筈が無い。
言ったところで信じてもらえる訳が無い。
闘夜の”能力”の事すら裕太は知らないのだから。