冥界の遁走曲〜第二章(前編)〜-2
しかし、死神同士仲は決して良いとはいえない。
一神はまだ友好的であるが、二神は傲慢な性格で他の死神を見下したような発言をする。
三神は気分屋な性格で、機嫌が良いときと悪い時とで態度が全然違う。
そして今は亡き四神は野心的で、いつも何を考えているか分からない時があった。
そんな四人なので私的な交流は一切無い。
そしてそれは子供にも引き継がれるかのように癒姫と楓も一切干渉しようとはしなかった。
かといって敵対していた訳でもないが。
それでも、一ヶ月前のアキレスの暴動の後、二人の関係は周囲の者ですら驚くほど発展した。
闘夜が帰った後、癒姫は同じ任務を受けていた龍也と楓にアキレスが死んだという結果を報告した。
龍也は、そうか、と頷いて癒姫に礼を言って立ち去っただけであったが、楓はその場で泣き出した。
癒姫は自分も泣きたい気持ちを必死に抑えながら楓を慰めた。
癒姫自身も同じ悲しみを味わった者として。
それから二人の仲は現在に至ると言う訳だ。
「楓さんも考えてくださいよ。
私一人じゃとても『死神会議』の議事進行や説明、しかも死神代行なんて……」
簡潔に説明すると、死神会議とは文字通り死神が集まって会議をすることだ。
普段なら死神以外の者は会議に参加しないと言うのが絶対の掟であったが、議事内容が死神殺しのアキレスのことなので仕方が無い。
死神殺しなど、言わば革命にも近い行いであるからだ。
そしてアキレスが行った暴動を詳しく説明する者が必要であるとして今回の会議には特例として癒姫も出ることとなった。
しかも議事進行と説明、そして今は亡き四神の代行として、だ。
何故これに癒姫が選ばれたかというと、冥界内ではアキレスの暴動を鎮圧したのが闘夜ではなく癒姫だと言うことになっているからだ。
一番最初に戒の総司令官と言う肩書きも持っている玄武に優先的に報告したところ、『神無月 闘夜の事は極秘事項なので口外してはいけない』と言われたのだ。
だからその極秘事項を知っている戒の上層部の者(これには龍也と楓も含まれる)、そして玄武以外の者には結果報告を偽っている。
そういった事もあって、闘夜を知らない他の死神が事情を一番良く知るであろう癒姫を議事進行と説明と言う役回りを演じさせてくれたと言うわけだ。
四神の代行と言うのはあくまでも人数あわせのおまけなのである。
「大丈夫、アンタならできるわよ、癒姫」
癒姫はその根拠の無い台詞がどうやったら言えるのか問いただしたかったが、二人の前に一人の男が近づいてきた。
「またここにいたのか」
龍也だ。
「部下への特訓は終わったの?」
日常のメニューについての事を当然のように聞く楓。
龍也はなぜか憤った顔をして、
「ああ、あまりにもやる気が見えねえんで全員半殺しにしてきた」
龍也の握った拳が揺れている。
だが、癒姫は怒る龍也に対しても、やる気の見せない部下に対しても無理のない事だと思う。
戒の中でのアキレスの評価は極めて良好だった。
指南役として訓練の時には厳しく、されどもプライベートな悩み相談などにも乗ってくれると言う優しさを兼ね揃えており、ほぼ全員から慕われていたくらいだ。
癒姫もアキレスの事は慕っていた。
死神と言う立場を見ず、戒の一個人としての癒姫の実力を見てくれたアキレスには比較的親近感が強かった。
そんなアキレスがまさか死神を殺し、あげくの果てに自身も殺されたなどと聞いて平然としている者はほとんどいなかった。